読書感想:夢にみるのは、きみの夢

f:id:yuukimasiro:20210418224310j:plain

 

 さて、この作品の作者のお名前を見て、何かピンとくる読者の方はどれほどおられるのだろうか。知識不足で申し訳ないが、自分は全く何方であるか知らなかった。この作品の作者である三田麻央先生は、作家が本業という訳ではなく、タレントの方である。では、タレントである三田先生が書かれたこの作品は、一体どんな作品なのであろうか。

 

友人無し、恋愛経験なし。趣味は乙女ゲームの推しキャラに貢ぐこと。そんなオタクなOL、美琴(表紙)。いつも通り、二次元の世界に浸る筈だった。だがその心の中には確かな変化が起きていた。同じ会社の先輩、優吾に初めての恋をしていたのだ。

 

 そんな彼女の二十五歳の誕生日。テレビの占いを信じ、憧れの先輩に話しかけようとして敢え無く玉砕し。やけっぱちになった彼女は、金髪のイケメンと出会う。

 

「実は俺、人間じゃないんだ」

 

ナオと名乗った彼は口にする。自分は人間ではない、研究所から逃げてきたAIであると。しばらくの間、かくまって欲しいと。

 

あまりにも荒唐無稽過ぎて信じられない、けれど拒む間もなく状況にあれよあれよと流され、始まる二人の同居生活。

 

 不意に始まった奇妙な同居生活の中。自分に積極的にスキンシップをとってくるナオに心揺らされ、美琴の心の中に揺らぎと戸惑いが生じていく。

 

春、出会い驚きに満ちた生活が始まり。夏、二人でお出かけなんてしたりして。何でもない、秘密の日々を積み重ねる中。彼女の中に、先輩への想い以外に新たな想いが芽生えていく。それは一体、誰への想いか。

 

「大丈夫。美琴の中に生まれた感情は恋を知った者なら誰もが持ってるものだよ」

 

同僚である華那とのやり取りの中、導かれていく自分の気持ちの行く先。名前のない感情は色付き、彼への想いへと向かう。

 

「私もナオが好き」

 

想いを抱え勇気を出して、彼へと伝える自分の気持ち。

 

普通のラブコメであれば、このまま幸福な結末に終わった、かもしれない。だが、この瞬間。彼女と彼の物語は終わる。唐突に全ては反転し、覆される。

 

何故、華那はこんなにも親身になってくれたのか。何故、「彼」は逃げ出したのに追われなかったのか。

 

夢にみるのは、きみの夢。それは果たしてどういう意味か。「誰」が「誰」の夢を見ていたのか。

 

この作品は、誰かにとってのバッドエンドであり、誰かにとってのハッピーエンドである。

 

だが、確かに「恋」のお話である。許されざれども、確かにそこにあった「恋」のお話である。

 

全てが覆りひっくり返される衝撃を、果たして貴方は受け止めきれるだろうか。

 

どんでん返しを味わいたい読者様、透明でキレイな恋の話を読んでみたい読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

夢にみるのは、きみの夢 (ガガガ文庫 み 13-1) | 三田 麻央, あおのなち |本 | 通販 | Amazon