読書感想:培養カプセルを抜けだしたら、出迎えてくれたのは僕を溺愛する先輩だった

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は遊戯王カードにおける「死者蘇生」をご存じであろうか。決闘者の方々であればかのカードの効果はよくご存じであろう。 では前置きはさておき、「死者蘇生」という行為については皆様はどう思われるであろうか。例えばファンタジーの世界であれば、禁忌であっても高度な魔法であっても時折存在するその行い。だが果たして、蘇生された人間は果たして本人と言えるのだろうか。その行いは、果たして良い事なのだろうか。

 

 ごく普通の少年、和真(表紙右上)。彼の意識が目覚めた時、何故か彼の身は謎のカプセルの中にあり。自分の身を包んでいた謎の液体から出た時、彼は何故かその身に違和感を感じる。

 

 そんな彼を迎えたのは、付き合ったばかりの恋人である先輩であり資産家一族の少女、薫子(表紙左下)。だが、事態は単純な感動話では終わらなかった。

 

「落ち着いて聞いてくれ。君は、一度死んだのだ」

 

彼女は告げる。和真は一度人間として死んでいる。そして今、その身はひとかけらの細胞から培養、複製した本人の身体に脳からサルベージした記憶を転写した存在である事。

 

「私にどうか、時間をくれ」

 

そして、その蘇生を為したのは薫子であるという事。テロ事件の中、自分を庇い命を落とした彼を蘇らせるため、薫子は科学に魂を売り、自らも身体を三十三回も複製し乗り換えながら研究を続け、全てを彼の為に捧げ復活させたのだ。

 

無論そんな研究が一朝一夕で出来る訳もない。彼女が研究に費やした歳月、数えて二百四十年。

 

 その間に世界は大変革を遂げ文明は崩壊し。ほぼ全てのものが緑に飲み込まれた終末世界へと、世界は変貌していた。

 

そんな世界の中、まずは運動能力を取り戻すためにトレーニングを始め、徐々に元の自分へと近づいていく和真。

 

そんな生活の中、逃亡者である少女、ノゾミとの接触を切っ掛けとし、薫子と和真は外の世界へと目を向け、二人で少しずつ踏み出していく。

 

ある時はかつて通った学校の跡地で野党の面々と激突し。またある時は、野生化して巨大化した豚を狩り。更にある時は、現存していた人間のコミュニティーを襲う賊を撃退するために戦い。

 

「僕も手伝いますし、ノゾミだっている。ラボにはマヤがいますし、仕える手段や機材もたくさんある。僕たちは、この世界で何だってできますよ」

 

 そんな日々の中見つけた、文明再興という新たな夢。そう、この世界は何処まで行っても自由であり何だってできる可能性に満ちている。そして最早、二人を縛る「目的」という重荷もなく。だからこそ今、新たな夢に向かい歩き出せる。

 

新たな世界を一歩ずつ探索する面白さと、ここにしかない青春が光るこの作品。

 

未開の世界が好きという読者様、何処にもない面白さを見てみたい読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

培養カプセルを抜けだしたら、出迎えてくれたのは僕を溺愛する先輩だった (ファンタジア文庫) | 冴吹 稔, 西陽 ミツバ |本 | 通販 | Amazon