読書感想:君は彼方

 

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は誰かに伝えきれなくて後悔した言葉はあられるであろうか。誰かにこれだけは伝えたかった、そんな後悔は胸の中にあられるであろうか。

 

ではこの作品の感想を今から語っていかんとするが、その前に。この作品は今度映画館で公開されるらしい。そのノベライズ版と言ってもいい筈の作品である。なので実際に視覚で味わいたいと言う読者様は、無限列車の合間を潜り抜け、映画館に見に行ってもらいたい。まずは予習したい、ノベライズ版で十分と言う読者様は、是非この感想を読んでもらいたい次第である。

 

家系に伝わる霊能力を持て余し、幼少期のトラウマから誰も見捨てたくないと願う少年、新(表紙左)。 その幼馴染であり、努力せず何も期待せず、何となく生きている少女、澪(表紙右)。

 

「お前、ほんと無精だな」

 

「え、普通でしょ」

 

「どこが」

 

何も変わらぬ筈だった二人の時間。だが、その時間は唐突に終わりを告げる。澪の親友である円佳の新への想いの告白により。そして、言葉に出来ぬ思いを抱えた新と澪のすれ違いにより。

 

例え、どんな結果となろうとも受け止める。そんな決意をした澪はだがしかし、事故に遭って不思議な世界へと迷い込む。

 

空を電車が進み、ペンギンやクジラが空を泳ぐという不思議な世界、「世の境」。ここは生と死の狭間、あの世とこの世の境目であり死者の記憶で構成される、現世への未練を捨てる為の世界。

 

いつも澪の側にいるエイリアンのマスコット、ギーモンがガイドとして澪を導かんとし、謎の少女、菊ちゃんが澪を行かせまいとする。まだ彼女は、ここに来るべき人間ではないのだからと。

 

この世界から戻る為の条件。それは現世へ帰る為の電車の切符を手に入れ、そして帰りたいという「想い」、誰かに伝えたい想いを思い出すという事。

 

伝えたい想い、それは一体誰の為か、誰に対する想いか。欠け落ちていく記憶を必死に集めながら、ギーモンや菊ちゃん達と一緒に番人と戦いながら、必死に駆ける澪。

 

現世で、事故に遭って意識を失った澪を取り戻す為、自らの家に伝わる秘術を用いて、己の命の危険をも顧みず奔走する新。

 

現世と幽世、あの世とこの世。二つの世界を股にかけすれ違いながら、澪は弱い己に別れを告げようともがき、大切な事を思い出さんとする。

 

 「大丈夫。澪ならできるわ。自分を信じて」

 

ちゃんと伝えたい想いは、臆病で立ち止まっていた過去の自分を乗り越えた先に。大切なのは一人だけではない。だから皆に伝えたい。

 

「もう誰にも左右されない。私の運命は、私の人生は―――。―――自分自身で決める」

 

「では、おぬしが向かう世界はどこだ?」

 

「私は、私の生きる世界に向かうの」

 

もう何もかも諦めていたあの日の自分とは扉の前でおさらばし、もう一度戻りたい彼の元へ。

 

ちょっと不思議で、何処か切なくて。過去と未来が交錯する世界で、己の想いを見つめ直して一歩、踏み出し成長する。

 

そんな青くて瑞々しい、青春ファンタジーが読んでみたい読者様は是非読んでみてほしい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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