肉。それは魅惑の響き。それは(恐らく)誰もが大好きなものであり、必須栄養素とも言えるもの。そして身近な食材でありながら、値段の上を追求すればキリのなくなるもの。果たして、画面の前の読者の皆様にとって「肉」とはどんなものであろうか。それは脇に置いておいて、画面の前の読者の皆様、この作品を読まれる前に一つだけ注意しておいてほしい。―――空腹時にこの作品を読むのはお薦め出来ない、という事を。
何故なら、この作品の中に登場するのは実際に存在する名店であり、その描写も相まって腹が減る事請け合いであるからである。ではこの作品においては、一体どういう経緯でそんな名店にいく事になるのだろうか。
その答えは簡単。この作品の主人公、渚が唐突に「未来の自分」であるという老人に、女子中学生と飯を食いに行ってくれと頼まれてしまったからである。
一体何を言っているのか? そう思われる読者の皆様、貴方は何も間違っていない。だが上述の説明により全ての説明が付くのであり、それが竹井10日先生ワールドであると納得していただきたい。
「全国大会優勝の話だよ」
「何の大会!? どっから来たの!?」
ついつい余計な事をしてしまう性分だけれど一切意味が分からず。いつも通り、幼馴染の原見桃(表紙中央)と小気味よいやり取りを繰り広げながら、過ごす日々。
が、しかし。謎の老人により無理矢理インストールされた連絡用のアプリが高級鉄板焼き店を待ち合わせ場所として示した事で、原見の様子は一変する。何を隠そう、彼女は肉の為なら他人の命すら平然と賭けるレベルの肉食女子なのである。
彼女にぐいぐいと押されるかのように。心の何処かに寂しさを抱える十四歳女子、雛鶴(表紙中央右)と高級鉄板焼き屋「肉の万世 秋葉原本店」を訪れ高級鉄板焼きを存分に満喫し。
更にはアプリが示した新たな待ち合わせ場所で、夢の残滓を抱える似非外国人な十四歳女子、ぺコリーナ(表紙右端)と原見をお供に待ち合わせし、「バルバッコア」でシュラスコを堪能し。
全て謎の老人の奢りであるという安心感の元、原見による肉の解説と豆知識を交えながらも進む会食。その会食は悩みを抱える彼女達の心解きほぐす鍵となる。それと同時に、歴史を変える引金ともなる。
自身が尊敬していた夭折した養父が、何故か生きている世界線になった。
転校してきたばかりの筈な雛鶴が、何故か一年前から転校してきている事になっていた。
そして、ぺコリーナと別れて一週間後、何故か九年の歳月を重ね大人になった彼女が現れた。
正しく、一体何を言っているの? そう画面の前の読者の皆様も思われるであろう。だが、これは真実なのである。実際に起こった出来事なのである。
ただ女子中学生とご飯を食べに行っただけなのに。何故、そんな事になっているのか?
その理由はまだ分からないし、彼等の未来の光景を、彼等はまだ知らない。
「人生はシュラスコなんだよ」
今はただ、美味い肉を食べているだけ。その未来に何が待っているのかも知らずに。
独特な会話劇と転がり落ちるようなギャグ、そこに仄かなラブコメを彩に添えて、隠し味に重めなシリアスを少々。
そんな作品であるこの作品は、間違いなく竹井10日先生の作品なのである。先生の作風がこれでもかと出ている、正しく我等の竹井10日先生が帰ってきたと言える作品だ。
だからこそ、ただ甘いだけのラブコメとは違って、味わい深い。まさに奇想天外摩訶不思議、そんな面白さ溢れる作品なのである。
竹井10日先生のファンの皆様、肉が食べたい読者の皆様、只のラブコメに飽きた読者の皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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