さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はもし、明日自分の命が消える事を事前に分かっていたら何をするであろうか。全てを諦め、享楽的に過ごすか、それとも最後まで自分らしく生きるか。貴方はどんな道を選ばれるだろうか。
異世界を舞台にした戦略ゲームを完全クリア、ランキング一位になった青年、龍一。彼の元に運営から、とあるチャンスを貴方に与えるという連絡が届く。
その連絡が届いた途端。彼はゲームの中の異世界に転生を果たしていた。その配役は、とある小さな領地の領主、エルヒン(表紙右)であった。
このエルヒンという領主、控えめに言ってしまってクズである。具体的には酒や賭け事に溺れ、気に入らぬ者を容易く皆殺しにしてきたという簡単に言うなれば、典型的な悪徳領主である。
もう、聡い画面の前の読者の皆様ならお分かりであろう。他の配役ならまだしもこの配役、もはや悪意塗れなのではないかと言わんばかりに前途多難と言っても過言ではない。
そしてその例に凭れず、このエルヒンというキャラはゲーム序盤であっけなく死ぬ。いわば最初にすぐ死ぬ配役なのである。
ではその死までの期限は如何程か。彼の死は、明日。
そう、明日なのである。最早詰んだと言っても過言ではない。
そしてその死を覆す為に行動を始めようとしても、悪徳領主の軍隊がまともである筈もなく。
もはや死あるのみ、諦めてしまってもおかしくはない。だが、エルヒンには彼だけに許されたゲームプレイヤーとしてのスキルがあった。ゲームのこれからの歴史の知識があった。そして、ゲームではない本当の戦いへと挑める勇気を持っていた。
その道のりは簡単ではない。ゲーム中では英雄として名高き謎の美女、ユラシア(表紙左下)に唐突に襲撃を受けたり。攻め寄せてきた隣国との戦に臨めば、補給部隊の隊長という役職に追いやられたり。
「任せろ。ここで奇跡を起こす。君とミリネにも。それが俺の約束したことだ!」
だがそれでも真っ直ぐに力を尽くし、誰かの願いと自らの願いを叶える為に奔走する。悪徳領主という配役では決して行わぬ、生のプレイヤーだからこその行いが人の心を動かし、戦局と心を動かす鍵となる。
全体的に言えば、戦略ゲームというお題目に相応しくゲーム性に満ちたこの作品。だがそんな中、常に綱渡りを続けるかのような緊張感がある作品であり、ゲーム性のある作品が好きな読者様であれば楽しめるであろう作品である。
未来を切り開く面白さを楽しみたい読者様、戦略ゲームが好きな読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
俺だけレベルが上がる世界で悪徳領主になっていた (ファミ通文庫) | わるいおとこ, raken |本 | 通販 | Amazon