さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は何か後ろ盾のようなものを持っておられるだろうか。自分がもし、何かミスをしてしまった時に盾になってくれる、頼れる後ろ盾のような存在はおられるだろう。
人類と魔王が争い既に百年近く、そんな異世界が何処かの次元に存在していた。ここで想像してほしい、百年と言う月日の長さを。それは、人が生まれ年を取り、そして死んで次代に何かを継いでいくくらいの長さであり、既に百年も前なんて昔話として語られかねない時の彼方。
だがしかし、その百年もの戦いの歴史は唐突に終わりを告げた。
「改めて『終わり』の話を・・・・・・するとしようか」
魔王城へと攻め込んだ勇者に魔王が講和を持ち掛けた事により、口約束ながらも唐突に戦争は終わった。そして引き裂かれた。魔族の中の戦争派の者達により。当然であろう、戦争が終わって助かる者もいれば困る者もいる、それは自明の理である。
本当の意味で戦争を終わらすために必要なこと、それは殺された魔王の復活。その為に人間の世界へと逃げてきた魔王の乳姉妹である少女、ミユリ(表紙中央)。
「つまり・・・・・僕に、彼女のお目付け役になれと?」
そして彼女のお目付け役として、極秘任務を言い渡されたのは役人になって半年の小役人な少年、クレト(表紙中央下)であった。
いくら僧侶の資格を持っており、幾つかの魔法が使えるとしても何故彼が選ばれたのか?
それは彼が小役人だから。どこの派閥にも属しておらず、誰の庇護下にも入っておらず。後ろ盾もなく、極論すればいなくなっても困らず替えの効く人材だからである。
「僕達は<魔王>の心臓を取りに来たんじゃない。君を迎えに来たんだ」
新たに仲間となったのは、勇者である事の役目と戦う術以外を与えられず、クレトの提案により彼の妹となった元勇者の少女、メルダ。
だがしかし、彼等の旅は前途多難である。困難続きである。正しく茨の道である。
それもまた、当然であろう。何せ、本当の意味で戦争は終わっていないから。勇者と魔王の間で戦争は終われど、誰にとっての共通の認識で戦争はまだ続いているから。
続いているならば、憎しみもまた止まらない。連綿と紡がれ継がれてきた憎しみは、終われないのだ、そう簡単には。
「袋小路に入ったら、後戻りして別の道を選ぶべきなんだよ」
「別に救出とかしなくていいんだよね」
そんな茨だらけの道、立ち塞がる困難を越えていく為に必要なのは、ミユリとメルダの力。そして、クレトの小役人だからこその勇気と機転。何も失うものがなく、誰も助けてはくれず。だけどだからこそ、誰よりも自由な彼の、しがらみのない彼だからこその一手。
「あんまり変わらないみたいですしね」
本当に互いに「違う」生き物だとしても。きっと知れば分かり合えることだってある。そして分かり合えれば、きっと新しいものを生み出せる。
全体的に何処か仄暗く、ダークな世界観の中に小役人という滅多に見ない主人公の成長と活躍を込めたこの作品。
榊一郎先生のファンと言う読者様、面白いファンタジーが読みたい読者様には、是非お勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
おお魔王、死んでしまうとは何事か ~小役人、魔王復活の旅に出る~ (講談社ラノベ文庫) | 榊 一郎, 鶴崎 貴大 |本 | 通販 | Amazon