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読書感想:むすぶと本。 『外科室』の一途 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、この巻の感想を書く前に画面の前の読者の皆様。本に限らず万引きはやめましょう。店が最悪倒産してしまいます。真白優樹との約束です。
そう、本の万引き問題である。もし本の声が聞こえたのならば、きっとそれは何よりも辛い筈の問題。「本の味方」である我らが主人公、むすぶであれば猶更。
「きみたちは本の運命をねじ曲げた本攫いの大罪人だ!」
だからこそ、むすぶは卑劣な遊戯に手を染める万引き犯達に怒りのままに雄々しく啖呵を切って見せる。全ては、万引きという形で盗まれ本来の出会いの縁を引き裂かれた「小僧の神様」の為に。
そう、今巻もまた、むすぶの前には沢山の本達が登場し、彼へと様々な言葉を囁く。
妻科さんの家にいた、ピッピの姉妹達が囁く、妻科さんの本心。
赤星君が持っていた、「すべてはモテるためである」という本、そのキュートな彼女が赤星君へと向ける想い。
そして、むすぶには読めぬ本。声が聞こえても何と言っているか分からぬ本。悠人先輩の妹である蛍(表紙)が持っていた本、「嵐が丘」。
異国の言葉で話されていたから分からなかった、彼女が何を言っているのか。しかも、悠人先輩がむすぶに持ち掛けた相談とは。よりにもよってその本に、蛍が「罹患」してしまった可能性があると言う事。
本に「罹患」とは何か。滅多に聞いた事が無いその言葉は、言わば本の世界に入り込む、本の内容に共鳴するという事の究極形。時に人の益になる事もあれば、時に人を破滅へと導く、大変な事になりかねない諸刃の剣。
だが、本当に罹患していたのは彼女ではなかった。そして、「嵐が丘」は彼女に真っ直ぐにただ、伝えたかっただけなのだ。
そう、本は人の一番近くにいる優しき隣人である。そして、本はいつだって私達を見ていてくれるのである。
「ありがとうございます。楽しみです」
その一件から、蛍との繋がりがむすぶとの間に出来て。
「わからなくていいよ。あたしが勝手にそう感じているだけだから。榎木はある日突然、あたしの前で、ふっとろうそくを消すんじゃないかって」
その繋がりに何処か負けじとでも言わんかのように。まるで宣戦布告が如く妻科さんもむすぶへ告げ、微妙な距離感が少しだけ縮まる気配を見せたり。
むすぶの恋人は夜長姫、只一人である。だがしかし、本との繋がりだけでは人は生きてはいけぬ。そして、本の味方であるからこそむすぶの周りには人々の絆の輪が出来て、たくさんの温かさが生まれるのだ。
何処か切なく、だけど温かく。野村美月先生だからこそ、この作品だからこそ。そんな面白さがまた一つ、深みを増すのがこの巻である。
果たして、夜長姫とむすぶの出会いに秘められた謎と想い、真実とは。
前巻を楽しまれた読者様、野村美月先生のファンである読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
むすぶと本。 『嵐が丘』を継ぐ者 (ファミ通文庫) | 野村 美月, 竹岡 美穂 |本 | 通販 | Amazon