読書感想:ダンジョン報道の最前線

 

 

 さて、時に報道に関わる人、記者というのは我々一般人にとっては身近ではない職業かもしれない。しかしその内情に触れてみると、意外とハードな職業であったりするのである。しかし、ふと考えるとファンタジー世界において報道、記者というのは中々見ない題材であるかもしれない。そう考えると、ふとファンタジー世界の報道ってどうなってるんだろう、と思ってしまうかもしれない次第である。普通にそういう組織はある、筈であるが。

 

 

という訳でこの作品はどういう作品なのかというと。ダンジョン×報道、という物珍しい物語であり。たった一つの真実を追いかけることになる主人公である新人記者、ネルコ(表紙)のお話なのだ。

 

砂漠に囲まれたダンジョン都市、ミルベル。この街の報道の花形、それは随行記者。ダンジョンに潜る冒険者パーティーに同行し、情報を持ち帰るもの。かつて「黄金隊」と呼ばれる有名冒険者パーティー随行記者だったベリークに憧れ、彼が社長を務める新聞社、ベルタイムスに入社したネルコ。

 

「私をダンジョンに潜らせてください!」

 

「駄目だ」

 

が、しかし。かつて溌溂としていた彼は今は見る影もなく無気力、ベルタイムスもまた有名人や政治家のくだらないゴシップばかりを追いかける新聞社であって。ぐぬぬと歯噛みするもダンジョンには潜らせてもらえず。

 

「武器を持てないあなたが、どうやって封印剣を抜いたのですか?」

 

そんなある日、張り込んでいた酒場で掴んだのは、かつて魔神を封じた封印剣を抜きこの街を存亡の危機に陥れた「災厄の聖女」、アイリスの処刑の話。自身もまた被害者であるからこそ居てもたってもいられず、監獄に押しかけ取材を試み。だがその中で知る。アイリスの身に秘められた加護、それは武器を握れぬというデメリットがあるもの。武器を握れぬのなら封印剣、も握れないのでは? つまり彼女は濡れ衣を着せられている? 追及する間もなく侵入がバレてしまい一大事。やむを得ずアイリスを脱獄させて共に逃走、ダンジョンへと逃げ込むことに。

 

こうなったら自棄でもいい、絶対に真実を知る。ダンジョンを巡り、アイリスの属していた「黄金隊」のかつての仲間たちの元を巡り話を聞いていく中、浮かんでいくのは違和感。あえて悪く言っている? なら何を隠している、なぜ言えない?

 

追手も差し向けられ一大事、だけどネルコは止まらない。

 

「―――おい馬鹿ども。記者が日曜だからって休めると思うな」

 

そして知っていくのは、ベリークの思い。かつてアイリスを貶める記事を不本意ながら書くことになってしまったその後悔。ゴシップばかりを追いかけるベルタイムスの存在意義、それはいつか黒幕に一撃牙を食い込ませるために。ネルコの熱意が、枯れ木のようだった彼に火をともし。今こそ救うために、と一丸となって。

 

「冒険を続けるよ」

 

復活した魔神も全員でぶっ飛ばして、黒幕もきっちり片を付けて。解放されたアイリスは、遺された思いを背負って歩きだす事を決め。ネルコもまた、並んで歩いていくのである。

 

少女の熱がまっすぐに出ている、目新しさもあるこの作品。小林湖底先生らしいファンタジーを見てみたい方はぜひ。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: ダンジョン報道の最前線 (MF文庫J) : 小林 湖底, ふじ子: 本