読書感想:世界の終わりに君は花咲く

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は、ゴジラ映画の中でCGアニメの三部作があったのはご存じであろうか。あの作品、人類の絶望度合いが中々に半端なくて私は好きなのだが、あの作品におけるゴジラを初めとする怪獣は、人類の文明の極致に現れるものであり、いわば地球の自浄作用、的なものなのだったが。仮にもし、地球に我々人類が排斥されそうになったら、とてもじゃないが生きていけないかもしれない。

 

 

と言う訳でこの作品は別にゴジラとは関係ないが、セカイ系なお話であり。地球と人間の闘い、でもあるお話なのだ。

 

世界的には物語開始二十年前、アメリカのテキサス州から始まった、謎の黒色の雨、「黒曜雨」。染み込んだ土壌では作物が病に倒れ、小さな動物から人間まで、後に「黒曜病」と言われる病により死んでしまい。どんどん黒曜雨が世界的に発生していく中、その雨の降る地で発生した、樹木のようなものに変じてしまう病、「白露病」。だが罹患者が変じた樹木は、黒曜雨を浄化する力があり。罹患者は変じた細胞を切除しながら生きるか、木となって土地を守るか、の選択肢を与えられ。世界は何とか存続していた。

 

「・・・・・・恋人なんて、違いますよね」

 

そんな大樹が生える街、星美咲。この街に住む、長男教の家で育った少年、想河。ある日彼が再会したのは、知り合いである夕妃(表紙)。この街に生える大樹、となった少女、朝妃の妹。彼女が訝しむのは、元々想河の兄であった智也と別れた後に、朝妃が想河と恋人同士では、という噂。だけどそれは違う。誰にも言えなかった、想河の罪がある。

 

それは、朝妃が智也に出していた手紙の運び役であったけれど、それをしなかった、という過去。向き合う事を恐れた智也が受け取らず、自分で受け取っていた、どころか智也を装い代筆していた、という事。

 

「今度こそ、信じてくれますか?」

 

卑怯だと自嘲する想河、だけど夕妃はそれを受け止めて、恋を告げて。心の楔が取れた彼と、彼女の優しい日々が始まる。 ・・・・・・となればよかったのに。世界はとても残酷である。突如降り始める今までよりも強い黒曜雨、世界中で枯れ始める世界を護ってきた大樹、夕妃に発露する白露病の症状。

 

「夕妃が望む未来が、選択のすべてです」

 

二本目の樹木が立とうとしているのは、星美咲のみ。世界の命運は今、彼女の肩の上。どうするか、というのは想河は夕妃に任せることを選び。 

 

「後悔のないように」

 

「君は、生きて」

 

彼へと、黒曜雨の真実であるかもしれぬ仮説を話した、医者である神志名は全てを任せて、自身は世界に選択を託し、枯れかけているテキサスの大樹、己の妻と世を去って。自分を好きと言ってくれた友人、植花を避難させて己は、夕妃の望むまま、この世界を見捨てるという道を選んで。

 

「明日を、楽しみにしていて・・・・・・」

 

だけど夕妃は。黒曜病に罹患していた想河を生かすために、大樹となる事を選んで。大切な人を亡くした世界で、彼女の遺した思いを胸に。彼は、歩き出していくのだ。

 

何処か切なく寂寥感があって、だからこそ選択がどこか尊さを持っているこの作品。セカイ系を見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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