読書感想:ハウリング・ブレイズ 葬焔の剣士と不死の魔女

 

 さてさて、画面の前の読者の皆様は「九龍城塞」という歴史的な場所をご存じであろうか。詳細は各自調べていただくとして、全体像を見ると最早小さな迷路のようなもの、であるのだが。この作品においても、「九龍城塞」のような場所は登場し、舞台となる。ギャングたちの思惑廻る迷路が如き街の中、魔女と魔女狩りのバディが駆け抜けていくお話なのだ。

 

 

32年前、世界各地は突如、異界に覆われた。「黑樂園」と呼ばれるそこは「聖櫃」と呼ばれる幻想の結晶を生み出し、人々を妖魔や亜人、魔女と言った存在に変え、人類の生存圏を脅かしている。そんな世界で、人類への脅威を狩る、神州国と呼ばれる国の「冥夜」と呼ばれる「魔女狩り」部隊の一員であった薫(表紙右)。彼女が一人訪れたのは「禍龍島」と呼ばれる地。裏社会に繋がり、ギャングたちと共に護送される「聖櫃」を狙う中。彼女は発生した妖魔を狩ろうとする中、「魔女」であるフィオナ(表紙左)に出会う。

 

「とりあえず、家に来ない?」

 

狙っていた「聖櫃」を横取りした彼女に、まるで友を誘うように家に誘われ。求められたのは、アルビオン王国と呼ばれる国の「魔女狩り」に捕まり、条件付きの封印をされた事で、人間相手には力を使えぬ彼女のボディーガード。見返りは、聖櫃。とある理由から己の生存の為に聖櫃を必要とし、復讐すべき相手を探す薫には、メリットの方が大きい選択肢。結果的にそれを選び、薫はフィオナが営む喫茶店、「猫遊館」にて住み込みの護衛になる事に。そんな中、フィオナの既知の相手である、治安維持組織所属の少女、凛から持ち込まれたのは、旧市街に存在する九龍城塞が如き、違法建築から始まった大迷宮、「骸閣楼」にて行方不明になった友人の捜査依頼。 六年前、圧倒的な支配者であった「魔王」の死から、裏の組織による勢力争いが起きている、治外法権の闇の場所。そこに「魔女」が絡んでいる、という目撃情報があり、二人で調査へ向かう事に。

 

その調査に絡みだすのは素敵な夢を見れる「魔薬」の影。恐らく、この「骸閣楼」の何処かに原材料を出す「黑樂園」がある。その仮説に基づき、調査する中。時に激辛グルメを薫が堪能したり、情報収集のために賭け試合に出たり。本国の「魔女狩り」、璃音も絡んでくる中で。本線と思い追った糸は繋がらず、しかし不死の肉塊を片付けた中、フィオナが勘付いたのは、不合理の裏の思い。それは復讐、この骸閣楼への。犯人は割れ、一度形成を立て直そうとする中で、無数の妖魔に襲撃され、更には屍の龍が目を覚まし。フィオナが一度死んだことで、不死性は明かされるも、薫の中の炎が消えてしまい。しかし、周囲に僅かにあった「聖櫃」の欠片を取り込み、薫はフィオナを追いかける。

 

「―――わたしは、あなたの護衛でしょ」

 

再び助けに駆け付け、奥の手をフィオナが放つまでの時間を薫が稼いで。バディの活躍で決着をつけて。しかしまだ、復讐は為らず。そして様々な伏線と共に物語は動き出す。

 

大きな物語が始まる予感のする、大きな枠組みでの面白さがある今作品。心燃えるような熱さを見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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