読書感想:天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。

 

 さて、全国から集まった子供達のチームが丸が書かれた白い帽子とバツが書かれた赤い帽子を手にクイズに挑むのは、「天才クイズ」という番組である。かつて東大生たちが常人では多分分からない、と思われるクイズを軽々クリアしていたのは「東大王」である。この作品にクイズは関係ないが、東大王の方を見た事のある読者様であれば、こういう人たちを天才と呼ぶのでは、と思われた事はないだろうか。

 

 

しかし天才、というものの定義は何なのであろうか? 何か一芸、または多芸に常人よりも数段秀でている人のことを言うのであろうか? この作品はそんな、天才と呼ばれる女の子達がヒロインなのである。

 

「・・・・・・嘘やん」

 

「それじゃあ・・・・・・私のウチに、来る?」

 

何処にでもいる平凡男子、理来。ある日彼を襲った不運、それは家であるアパートの全焼事件。持ち物財布とスマホのみ、海外赴任中の父親からは一日待て、という連絡が帰るのみ。家なしとなってしまった彼に声をかけて来たのは、学校でも有名な天才三姉妹、天王洲三姉妹の次女で級友、天才ゲーマーの二葉(表紙右下)。

 

「・・・・・・今度は、私が」

 

「・・・・・・何でこんなに嬉しいのよ」

 

「―――悪くなかった、かも」

 

周囲とは違う、特別扱い。故に感じていた疎外感、孤独。唯一声をかけ続けてくれていた理来の事を気になっていて、助けたいと願った二葉。家に招かれ目撃したのは三姉妹の誰も家事をやらぬ故の惨状。家事一切を引き受け、掃除に料理に活躍し。そんな活躍と何気ない、色眼鏡のない純粋な言葉が長女の天才ピアニスト、一夜(表紙左)、三女の天才陸上選手、彩三(表紙右上)の心を揺らし、するりと入り込んで。 まるでクリティカルヒット、したかのように心の扉が開いていく。

 

「「抜け駆け禁止!」」

 

しかし関わりは一夜、となるかと思いきや実は理来の父親と三姉妹の父親は旧友であり、その縁で三姉妹の家への居候が本決まり。 そう、ここに準備が整った。理来を巡る三者三葉、けん制し合う恋模様が始まったのだ。

 

理来の服を買いに行って着せ替え人形にされたり、恋心を知りたい一夜とデートしてみたり、二葉が学校で事情をばらしてみたり、放課後に一緒にゲーセンに行ったり。 基本的に姦しく、三人それぞれの積極性で。 しかしそこに波乱の芽。 二葉との帰り道、遭遇したのは理来を捨てて出ていった母親。今は幸せに暮らしているその様子を見、黒い思いに囚われて、理来は心を閉ざそうとする。

 

「―――理来は大切な家族だから」

 

だけどそんな君は見たくない、今度は私達が助ける、と言うかのように。共に過ごしてきた、血は繋がらないけど家族として。 理来をお祝いする日、という名目で彼の元へ押しかけて。

 

「これからは支えてもらうだけじゃなくて・・・・・・家族として、私たちも理来を支えるね」

 

真っ直ぐに伝える、貴方が必要、貴方なしではいられない、という思い。そこに込められていたのは愛、伝わり思い出すのは願っていたもの。 昔は得られなかった、だけど今はここにある。 それに気づいて前を向き、また改めて家族になるのだ。

 

三姉妹のドタバタ、姦しさという構造に懐かしさも感じる中でその中に確かにあるラブコメと、家族愛の温かさ。 嗚呼、とても悦い。 正にナイスな展開が目白押しな、ナイスな物語なのだ。

 

そんな、真っ直ぐに楽しめるラブコメ、推しが出来る、かもしれぬラブコメを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

 

天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。 (GCN文庫 ア 03-01) | 秋月月日, 塩かずのこ |本 | 通販 | Amazon