さて、時に画面の前の読者の皆様は「それでも僕はやってない」という映画をご存じであろうか。一昔前の映画であるので見たことのない、という読者様も多いかもしれないが。まぁ一言で言ってしまうと痴漢冤罪を題材にした映画であるのだが。痴漢、という犯罪が冤罪であった場合、無罪と証明するのはとんでもなく難しいらしい。そういう目に遭わない為にも、電車に乗る際は車内での行動は気を付けていくべきであろう。
さて、そんな社会派映画のお話はともかく。かの映画で題材となった時代と今ではSNSの発達、普及度合いが違う訳で。SNSに溢れる情報が例えばウソであったとしても。それを信じてしまう人が沢山いれば、それは真実になってしまうのかもしれない。この作品はそんな、冤罪から始まるラブコメなのである。
英雄的行動の果てに亡くなってしまった父親を持ち、洋食屋を経営する母親に女手一つで育てられ。自身は文学部に所属する少年、英治。彼には恋人がいた。その名は美雪。彼女もまた女手一つで育てられた母子家庭出身であり、幼馴染み。幸せな時間を過ごしてはいたものの、八月三十日。誕生日デートをするはずが予定が合わず、何とはなしに街を歩き回って。
「なんで、ここに」
そこで偶々遭遇してしまったのは、衝撃の光景。それはサッカー部に属するイケメン、近藤と美雪の浮気現場。問いただす間もなく暴力で追い払われ、更には拒絶を告げられて。より最悪な事に、DVという嘘をSNSで拡散されてしまい。新学期早々、孤立してしまい。私物を壊されたり捨てられたり、と酷い目に遭わされ。どんどんと孤立と焦燥を深めていく。
「いいよ。さすがに女の子には優しくする」
そんなある日、ふらふらと訪れた屋上で出会ったのは、学園一の美少女である後輩、愛(表紙)が死のうとしている光景。思わず引き留め、学校を飛び出して。傷ついている自分もいとわず関わって。少しだけ彼女の心を軽くすることに成功する。
「お前たち、器物損壊って知っているよな?」
「これ以上、あなたのことを嫌いになりたくないから、変な言い訳はやめてくれない?」
そして、セカイは厳しいばかりではない、全員が敵ではない。先生は味方し、真実を知ろうと動き出し。先に美雪の浮気に気付いていた英治の母親は、美雪を鋭く拒絶する。
「じゃあ、噂の現場を直接見たの?」
それは愛も同じ。英治の家で家族の温かさに触れ。傷ついても尚優しい彼の心に惹かれ。彼の為に、自分に出来る事を、と行動を始める。
そう、一人じゃない。そこにある根底は確かな人徳。絶望に落ちたのならば、希望へ上がる権利がある。少しずつ、一歩ずつ。心癒され救われていく英治。
対し、美雪と近藤はまるで真綿で首を締めるかのように。地獄へと落ちる前、まずは煉獄へ、とでも言うかのように。 クズ過ぎて様々な恨みを買っていた近藤に巻き込まれ不純異性交遊の現場を撮られ。母親にも知られて失望され。一つずつ、全てを失くしてく。
「せっかくのデートなんだから、少しくらい何かあった方がいいじゃないですか」
そんな事態が起きているとは露知らず。英治は愛と初めてのデートをして、少しずつ心を埋めていくのである。
希望があるから絶望があり、絶望がより希望を際立たせる。胸糞だからこそその甘さが沁みるこの作品。だが、まだこれから。もっともっと、面白くできる筈だろう? もっと奴等を地獄に叩き落とせるだろう? そう、続きへの期待が確かに深まるのである。
胸糞があるからこその再生、を見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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