さて、例えば怠け者というキャラで認識されている人がいるとしよう。未熟者、でもいいが。 未熟者、怠け者と認識されていてもそれはその人の全てではなく、一部分にしか過ぎない。本当は誤解されているだけかもしれないし、見られている部分は氷山の一角かもしれない。しかし一部分だけ、それが全体の主観を占めてしまえば、それはレッテルと呼ばれるものにも変わってしまうのかもしれない。
と、まぁそんな事を語ってきたわけであるが。キャラという認識は時に面倒で、時に誤解されているものかもしれない。この作品はそんな、キャラというものが重要な作品なのである。
およそ半世紀前、一部の若者たちの間に発現するようになった現象。空想上の存在が持つ特徴に覚醒する、僅かながらに。そう、僅かに。特徴には覚醒するけど別に異能的な力に目覚める訳でもなく、更には三十歳を超える頃には自然消滅するという事もあり。その現象に襲われた者は「ミューデント」と呼称され。特徴をキャラとして、普通の日常を過ごしていた。
「私たちはまだ何も成し遂げていないじゃないっ!」
「成し遂げていないからこそ解散なのでは?」
それはごく普通の一般人、翼の幼馴染でもある朔夜もまた。「サキュバス」のミューデントであり、しかし本人は多種多様な趣味を持つ残念美人。彼女に振り回されつつもう限界だと引き離そうとし、しかし見捨てられず。 主に朔夜が占拠していた廃部になった文芸部部室からの退去勧告に逆らう為、活動実績を作る事を求められ。相談系の部活という方向性で動き出す。
「端的に言って存在自体がスベッてる」
「人並みの気遣いはどこへ!?」
そんな彼等の元に、アドバイスを聞きに来た「ウェアキャット」のミューデント、真音(表紙)。 顧問として加わる「雪女」のミューデント、牡丹。 彼女達に対する翼の容赦なきツッコミが冴え渡ったりしつつ。彼女達の問題に迫ったりしつつ、歓迎会と称して朔夜の主導で出かけることになったり。
そこへ舞い込んでくるのは、この学校の誰からしきえっちな裏アカ騒動。その裏に隠れていたのは「人魚」のミューデント、碧依の抱える思い。 人魚、という個性、そこから貼られたキャラ、そこに対するストレスと、心の叫び。
「僕らは何も変わらないんだって、みんなが気付かきゃ駄目なんだ!」
それにこたえるかの如く、叫ばれる思い。それは翼の思い。ミューデントの傍に居て、彼女達を真っ直ぐに見てきたからこその思い。
「埋めないでいいです、あえて」
そう、何も変わらない。神話生物が如き特徴を持っていても、未だ未完、埋まらぬ者だから。だからこの部活の名前は埋めなくていい、それが自分の王道だから。
キャラに関する思いが巡る、真っ直ぐに熱い青春があるこの作品。青春ものが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。