前巻感想はこちら↓
読書感想:ミモザの告白4 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、LGBTQというとっても題材にしづらく触れていくのには繊細な問題を伴っていたものを繊細に描き、思春期の心の動きと絡めて描き出していたこの作品も遂に最終巻ではある。咲馬と汐、向き合い続けてきた二人の思いにも決着をつけるべき巻である。 さてここでふと、画面の前の読者の皆様に問うてみようと思うが。二人の関係はどんな関係であるべきか。恋人、という方向性もありかもしれない。しかしこの作品において、恋人という方向性で収束するのは果たして正しい事なのか。
心と体の性が一致しない、ならばそれならどう見ればいい? 考えてみればそれもまた難しい問題である。その辺りにも、決着をつけていく巻なのだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
前巻、咲馬から告げられた想いの告白。心の距離が近づくにつれ予防線を貼りたいという汐の思いは分かる、だけどきっと自分達なら大丈夫だと胸を張って。汐もその思いを受け入れ付き合う事に。
「恋愛は、これからもっと自由になるの」
何気なくデートをしたり、キスをしたり。そこへやってくるのは北海道への修学旅行。汐が条件付きの特別扱いを受けたり、班決めで炙れたりしつつ。しかしそこへ水を差すのは、この作品を掻きまわす存在である世良。彼に二人の交際を知られて噂として流され。彼自身の自由な恋愛観を目撃したりしつつ。 どうすれば汐との恋はもっと楽しくなるか、と考えてしまう。
北海道に到着し、海鮮を楽しんだり、スキーでドタバタしたり。その中、やはり世良は自由に動く。まるで問いかけるように、試すかのように。汐の部屋に遊びに来て、咲馬も交えて負けたら秘密を明かす大富豪をしたり。 咲馬を一人、宗谷岬に連れ出したりして。
「汐に対する同情を、好きだと勘違いしてるんじゃない?」
突き刺してくる、問いかけてくる、いっそ残酷なまでに。汐に対し欲情できぬ、触れ合うのにも勇気がいる。それは果たして恋なのか、と。彼が予め聞き出していた汐の思いを、自分自身で確かめて。 今まで見えていなかったものに、心を散々にかき乱されて。
「俺と、一緒に来てほしい」
だけどそれでは、この思い出は悲しいばかり。そんなのは嫌だから。 咲馬の決意、汐を誘い修学旅行を抜け出して二人だけで向かうのは、勝手な延長戦。日本の最北端を見に行く旅の中、改めて思いを確かめて。
「胸がいっぱいになって、溢れそうになるんだ」
恋人じゃなくとも繋がれる形はある。押し込まずとも自然でいられる関係性はある。その思いを確かめて。未来に向かって彼らだけの関係性を築いていくのである。
シリーズファンの皆様、どうか最後まで楽しんでみて欲しい。