さて、不労所得、若隠居。そんな言葉に憧れを抱かれる読者様もおられるかもしれない。せかせかと働く事も社会の荒波にもまれる事もなく、のんびりと心のままに自由に。何もしないでもお金が得られる、という生き方をしてみたいと思われる読者様もおられるのかもしれない。だが願ったところでそれは難しいのかもしれぬ。それが出来るのには並大抵の準備では足りぬだろうから。
働いていずともお金が手に入る、それが出来るようにするには準備が肝心。それこそ何があっても揺らぎはしない土台を作るのは、並大抵の事では出来ぬ。そんな準備を整えたのがこの作品の主人公である黎人(表紙奥)である。一昔前に世界各国にダンジョンが出現し、今やダンジョンで採れる魔石が世界に根付き、国家がダンジョンを管理する世界。学生の頃から学業の傍らにダンジョンに潜り、今や世界に12人しかいない最強ランクの冒険者。更には稼いだ金を投資し複数の会社のオーナーも務め。
「ねえ、おにーさん、ご飯奢って?」
だが、長年付き合ってきた彼女である香織に結婚を申し込めば、冒険者は底辺だと思い込んでいる彼女に、二股を告白され。更にはその相手であるダンジョン管理組合の職員、相澤に横暴に冒険者としてのライセンスを剥奪され。元々引退も考えていたからまぁいいかと思いつつ、少し自暴自棄に。そこで彼に声をかけてきたのは、親から捨てられたギャルな少女、火蓮(表紙右)。家なき子である彼女を、冒険者として鍛えることになり。気が付けば師弟な生活は始まる。
「それじゃ、ちゃんと見とけよ?」
地方ギルドで再会した元同級生に勝手にブラックリスト入りさせられるという雑事もありつつ。まぁいいか、と悔いない様子で火蓮へと指導を続け。火蓮の方も、黎人の事情は知らずとも彼の強さをほんのりと感じたりしながら。自分なりに強くなりたいと言う目標を見つけ、彼に恩返しをせんと、努力を重ねていく。
しかし、世界最強の冒険者が引退、というより強制的に冒険者ライセンスはく奪というのは当然大混乱を巻き起こすものであり、そこに関わったものに待っているのは因果応報の第一歩。相澤は無事に悪事がバレて左遷、香織も仕事をクビになりそこについていく事に、とこの先もきっと茨の道へ。 素直に謝罪できた元同級生とは真逆の道へ。
「ほら、この労働契約が終わるまで火蓮は俺のものになっているからな」
しかしそうとは露知らず。火蓮を黎人は身請けするようなものとなり。新しい関係も交えて、また二人の日々は始まっていくのである。
弟子が中心の熱さと、きちんと悪には因果応報もあるこの作品。真っ直ぐな現代ダンジョンものを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。