読書感想:七月の蝉と、八日目の空 ―晴れ、ときどき風そよぐ季の約束―

 

 さて、この季節、蟬というのはうるさい存在である、と思われている読者様もおられるだろう。苦手な方にとってはこの時期は鬼門と言えるかもしれない。うるさいばかりの鳴き声で起こされるのも不快だし、道端で足を縮めて死んでいるのを見るのも気が滅入る。しかし日本は未だマシ、なのかもしれない。アメリカの一部の地域には十七年ゼミと呼ばれる十七年も土の中で暮らす蟬がいるらしく。一斉羽化の時期は、数十センチも死骸が積もるらしい。想像するだに恐ろしい、吐きそうである。

 

 

しかしそんな蟬、という存在を幼き日に追いかけたと言う読者様もおられるかもしれない。そして蟬、というのはあっさりと短命、すぐ死んでしまう。この作品はそんな、蟬がうるさい夏の季節のお話なのである。

 

バスケに青春を捧げ、しかし最後の大会を前に足を負傷してしまい、チームを離れた少女、晴(表紙右)。何もやることのない夏休み、兄である晃と共に暫しお泊りする事になった田舎にある祖母の家。

 

「誰からも、好きになってもらえないから」

 

ある日、晃におぶわれ祖母に教えてもらった壊れた神社に行く途中、拗ねて兄に置いて行かれた後、見つけた池にいたのは飛び込もうとしている謎の少女。自分の名前も分からない、何故か、死にたいと思っている。そんな彼女を引き留め、名前も分からぬと言う彼女にセミちゃん(表紙左)というあだ名をつける。

 

だが、何故か彼女の姿は自分以外には見えていない。誰にも認識できない、自分だけが認識できる。そんな状況を疑問に思いつつ、交流を重ね。バスケを教えたりする中、自分の失ったものを見つめ。彼女に促され、かつての仲間達に連絡を取ったら当たり前のように集まってくれて。その中の一人、幼馴染みである桜花の兄、大樹もやってきて。晴が負傷する原因となった事故の原因であり、蟠りもある彼とも和解する事が出来て。少しずつ、彼女の心は前を向いていく。

 

「わたしが、晴にとってどういう存在だったのか。だから、いなくならないといけない」

 

そんな中、突如そう言いだして去ろうとするセミちゃん。追おうとすう晴は思い出すことになる。そもそも合わぬ時間の整合性、何故そもそもこの神社を訪れようと思ったのか。そこにあったのは残酷な事実。治ることのない、全てを奪われてしまった、という事。

 

「自分の足じゃないよ。私、色んな人たちに支えられて」

 

だけど、もう一人じゃない。思い出す、何もかも失った訳じゃないと言う事。皆に支えられ応援されていたと言う事。 だからこそ立ち上がり、駆け出す。この夢のような時間が終わる前に、伝えたいことがあるからと。

 

それはわずか一週間、不思議な時間のお話で。だけどその先にまた立ち上がって歩き出していくお話なのだ。 感動してみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

七月の蝉と、八日目の空 -晴れ、ときどき風そよぐ季の約束- (講談社ラノベ文庫 か 11-3-1) | 界達 かたる, 古弥月 |本 | 通販 | Amazon