さて、時に画面の前の読者の皆様の何割かは成人済み、であると思われるがお酒が好き、という方もおられるだろう。お酒が好き、と一口に言っても様々な種類がある訳でその中から細分化されていくかもしれぬが。そんなお酒が法律で禁止されていた国がある、というのはご存じだろうか。禁酒法、という法律であるのだが。
別にこの感想は歴史を解説する訳でもないので詳細は自分で調べてもらいたい次第であるが。かの時代は密造酒、そしてそれを作るマフィアが跋扈していた中々の暗黒時代、と言える訳であり。そんな時代的な世界を舞台に、話題のyoutube楽曲から創り出されたのがこの作品である。
1920年代、禁酒法が成立して、すっかり定着した合衆国。その最大の都市、ブローケナーク。貧民と悪人たっぷり、暴力と無秩序、腐敗をこれでもかと詰め込んだマフィアたちが中枢まで入り込んで支配している汚れた街。この街で、叔母が経営する元酒場で働く青年、サンガ。生活は貧しく、いつも寝不足。だけどそれでも幸せだった。守るべき存在、妹のアルハがいるから。
「こんなところでなぁにしてんの? 何か辛い事でもあった?」
だがそんな日々は脆くも炎に消える。密造酒を売りに来たマフィア、「ファルコファミリー」の一員、ブルーノを追い返したらその手の者により店に火炎瓶を投げ込まれ。店は無残に大爆発、錯乱し逃げそびれた叔母と助けに戻ろうとしたアルハを亡くし、失意の虚無に沈む彼に声をかけたのは胡散臭い男、真紅(表紙)。ファルコファミリーとは別のマフィア、「アムリタ」。誰からともなくシャンティ、平和という意味の名を持つ薬を専売する奴等。そのチャイナタウン支部の「白蛇堂」、その若衆頭。ディーノへの復讐に燃えるサンガを、今殺されると困るからと拷問混じりに止められて。自分に殺させろ、と入れて欲しいとお願いしたら、まずは借金の取り立てをしてこいと試験代わりに命じられ。 だが厄介事は重なるものか。間違えて真紅達とは敵対関係にあるマフィア、「翼幇」の胎竜の元へ行ってしまい。停戦協定無視のあわや抗争か、という場面で乱入してきた真紅に助けられ。
「まずは、うちのお作法を教わっておいで」
何故か彼の家でお世話役、的な見習いとして住み込む事に。一応は一員として認められ、豪と宿という二人の組員に紹介されて。今までは兄、だったが弟のように可愛がられ、次第に仕事にもなじんでいく。
「君はね、人を殺せないよ」
だがその中、突き付けられていくのはサンガの性根、かえられぬ部分。根本的に人を殺せぬ、それを突き付けられ。自身にとってのシャンティ、平和を失ってしまった事を自覚させられ。そんな彼に、真紅は優しい笑みを向ける。これからここで、自分を作り直していけばいい、どうせここには嫌いなものばかりだから、と。
けれど。どうも世界は残酷、それは変わらぬ。再びディーノの手の者の魔の手により、祭りの場でサンガの命は奪われ。 悼むのも一瞬、この街では死が安すぎるから。いつも通り真紅は部下達と共に日常に戻る、筈だった。
「俺かあ」
だけど、どうも。彼の存在は大きい、ものであったらしい。 攫われた娼婦を救出に行った先で遭遇したディーノ。サンガの事を貶す言葉を聞いた途端、無意識にその頭を撃ち抜いていた。
「まあもうどうでもいいんですけどね」
どうでもいい、そんな事も。 関係ない、何も。 そう飲み込んで、彼はまた退屈な平和な日常に戻っていくのだ。
人の命が軽すぎる、ダーティな作品が見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。