読書感想:コドクな彼女

 

 さて、突然ではあるが、画面の前の読者の皆様は、「ひとりじゃ辛いからふたつの手を繋いだ」 というとある歌の歌詞をご存じであろうか。 知らないと言う方は今すぐ歌詞検索か何かで検索していただいて、アニメ版でいいので触れてみて欲しい。まごう事なき名作、であるので。 それはともかく一人じゃ辛い、孤独。それは友達がいないという事かもしれぬ。 それは確かに寂しいもの、だろう。

 

 

無論、例えば熱中できる趣味があるから周りに人がいなくても大丈夫、という方もおられるだろう。しかし人は一人では生きていけぬ、だから誰かと繋がるし共存、もするのかもしれない。この作品はそんな、「共存」、そして「愛」を語るお話なのだ。

 

ごく普通の大学生、叶。彼はある日、悪友に数合わせのために合コンに誘われ。同居人を引き合いに断ろうとしたら、同居人も是非と誘われてしまい。

 

「少しある、かも」

 

ちょっとぽやぽやした不思議系、同居人の奈紺(表紙)に相談したら、彼女も興味があると言い。二人で合コンに出かけ、楽しみ・・・・・・

 

「だからこれから・・・・・・あのお化け、食べるね」

 

・・・・・・きれなかった。 悪友が引き当ててしまったのは、入水自殺へと引き込む怨霊。だけど悪友を引き込もうとした怨霊は、幾多の毒持つ生物に襲われ。最後には奈紺に食べられ、この世から消え失せる。

 

「君は・・・・・・君が思うほど、悪い奴じゃない」

 

一体彼女は何者なのか? その正体は「コドク」、即ち蟲毒。それも一度作り上げた成果物を、更に二回も蟲毒の壺に押し込め育成した、言わば三倍の蟲毒。どう考えても危なすぎる呪い、それが偶々人格を得、人間の姿を得ただけの存在。つまり彼女は人間の形をした呪い、只のイレギュラー。

 

「独りは・・・・・・いや、です。 一緒に、いて」

 

では何故、叶と共に居るのか。 答えは一つ。富士の樹海の奥の施設、生み出した術者を殺し、しかし森に拒まれ。人里へと出ても、人間に怖がられ。だけど彼だけは助けてくれた。人格を持ったことで自らの中に生まれた「コドク」、孤独を彼だけは埋めてくれた。だから、隣に居たいと縋りついて。叶もまた、無意識のうちに受け入れてしまったから、である。

 

「かなえが、わたしの寂しいと悲しいを、止めてくれたんだよ? だから、一緒に、いさせて」

 

だからこそ、叶の側が唯一の居場所。コドクでなくなる場所。 その場所を無くしたくない、無くそうとする者がいるなら許さない。まるで縋りつくように、奈紺は叶の傍に寄り添い、共に日常を普通の人間のように過ごし。

 

「よかったぁ・・・・・・」

 

そして、やってきた退治屋たちが驚くほどに。 叶も奈紺の事を呪いではなく、共にある者として。人外の本性を曝け出した彼女を止め。彼女もまた、毒気をあっという間に抑えて寄り添い合うのだ。まるで、恋人同士かのように。

 

世界の常識からみれば間違えている、のかもしれない。 歪んでいる、のかもしれない。だけど、お互いにお互いしかいない、どちらが欠けてもダメ。そんな二人の根底には、確かに「愛」があって。だから「共存」していけるのだ、普通の人間のように当たり前に。

 

そんな、共存と深くて濃い愛が見所であるこの作品。心わしづかみにされたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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