読書感想:霧桜に眠る教室で、もう一度だけ彼女に会いたい

 

 さて、某MF文庫Jにはたんもしこと、「探偵はもう、死んでいる」という作品が存在している訳であるが、物語が始まる前にヒロインが死んでいるという作品で一番有名なのは、かの作品ではないだろうか。ヒロインが既に死んでいる、という状況は何を齎しどんな問題を持っているのだろうか。恐らくもたらされるのは切なさであり、問題と言うのはそれだけヒロインの強さがなければいけない、という事なのかもしれない。SF的な要素が絡んでくるのなら、ヒロインが蘇生すると言う展開もあるかもしれない。しかし、基本的に死んだ人間は蘇らない。それこそ魔法でもない限り。

 

 

ではこの作品のヒロインである澄御架(表紙右)は生き返るのか。それは、恐らくないのだろう。何故ならばこの作品には超常現象はあっても、魔法はない。奇跡は決して起きないのである。

 

「あいつはもう死んだんだよ・・・・・・」

 

かつてとある高校のあるクラスを襲った、謎の超常現象。「青春虚構具現症」と呼ばれたそれは、青春の衝動、願いが生み出したもの。ある時は他人と入れ替わる現象が起き、またある時は恋愛関係にある男女が消えると言う事件が発生し。そんな事件を解決するために相棒として駆け抜けた少年、社(表紙左)。しかし進級を控えたある日、澄御架は唐突に去り、死んだと言う事態だけが知らされ。英雄無き世界を無難に過ごす中、彼は澄御架の後継者を探しているという転校生、閑莉に声を掛けられ。後継者探しを断る中、進級後の他のクラスで今度は消える生徒が現れる、という事件が発生する。

 

放っておけないと言わんばかりに調査に乗り出す閑莉。気紛れと言わんばかりに手伝う事となる社。彼等を待っているのは新たな「青春虚構具現症」。ある時は図書室のギャル、古海の抱える問題に立ち向かい。またある時は、社に思いを抱いているらしい去年からの級友、翼の問題に目を向ける。

 

さて、先に言ってしまおう。ここまでの流れの中で、もう把握しておられる読者様もおられるかもしれないがこの作品は一種の探偵ものである。よって私は、この作品に散りばめられた謎を語ると言う事は、これ以上出来るわけはない。なので少しだけ、この後触れる事としよう。

 

「おまえがいなくても、俺たちはなんとかやっていく」

 

それは決して死者は蘇らないと言う事。それでも彼等は、確かにそこにいた英雄の面影を抱えて進んでいかねばならないと言う事。

 

そして後継者、というのはいない。何故ならば誰もが勇気を出せば後継者になれる、という事を。

 

胸を刺すような青春が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 霧桜に眠る教室で、もう一度だけ彼女に会いたい (ファンタジア文庫) : 来生 直紀, 黒なまこ: 本