読書感想:ダンジョン城下町運営記

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は、例えば世界の戦争の中で、もっとも世界の行方を左右する戦争というのはどんなものであると思われるであろうか。例えば核の飛び交うような戦争であったのなら、それこそ世界の危機である。しかし核と言うのは抑止力であり、撃つのはそれこそ、自分の手で終わりを宣言するようなものであるので撃たれないという前提となる。では、「経済戦争」という戦争をあげられる読者様はどれだけおられるであろうか。国を富ませ、相手の国に対抗し弱体化させる。それもまた、一つの戦争と言えるのかもしれない。

 

 

幾多の企業を再生させ、高校生にしてとんでもない財を築いた少年、優多(表紙中央)。しかしそんな輝かしい結果を残してしまえば、結果としてハイエナのような輩に群がられるのは明白であろう。友人や親戚の幾多の裏切りを受け、挙句の果てには父親に致命傷を負わされ。命を既に諦めながらも僅かな後悔を残し。彼の命は終わろうとしていた。

 

「・・・・・・これ以上、誰も死なせたくないんです」

 

・・・だが、死の間際に彼は異世界へと召喚される。召喚主であり異世界の亡国の姫君、ミユ(表紙左)の涙に、死を見つめる事を一旦諦め。全く制御できず大反抗を企てる軍務卿、コーワンを前に優多は高らかにハッタリも込め、三か月以内に状況を戦略レベルで改善して見せると宣言して見せる。

 

「君の『全力でがんばる』に期待してます」

 

では、戦略レベルで国を富ませるにはどうすればいいのか? 手駒として使えるのは、ミユのただ穴を掘ると言う魔法のみ。だがしかし各国が開拓を諦めた荒地の地面の下、そこにはダンジョンも無限の価値も眠っている。ならばどうするのか? ―――立っている者は英雄でも使え、と言わんばかりにミユをこれでもかとこき使い。まずは街を整え、商人たちを呼び込み、パンとサーカスと言わんばかりに民衆に娯楽を提供し。「再生屋」の異名のそのままに、ミユの元に権力を集める仕組みを作っていく優多に辺境伯令嬢のフィア(表紙右)も注目し。自分と同レベルで話し合える彼女という友人を得、更に優多は勢いを増していく。

 

その裏、自分の力不足に悩むミユはコーワンのとある策略を見、心を痛め。全部を自分で引き受けようと、敢えて優多たちを裏切る形で全てを終わらせようとする。

 

だが、その裏にあるのは優しすぎるミユの心。彼女に全てを背負わせるわけにはいかない、ならば彼はどうすべきか。

 

やるべきことはミユの意にも、コーワンの意にも沿う選択肢を選ぶ事。死を嫌うミユと、戦争をどう結び付けるのか?

 

「―――政治と経済の戦い方、ご存じですか?」

 

その絵図は既に優多の中に。簡単な事だ。政治と経済ならばできる。一戦も交えずに領土を切り取り、更にはそれを巨額の富に変えてしまう事だって。

 

再生、というテーマが独特の温かさと優しさを醸し出しているこの作品。経済でワクワクしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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