読書感想:英雄失格者の魔獣グルメ

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は、「現実には存在しない食材を調理する物語」と聞いて、思い浮かべるのは何の作品であろうか。ジャンプで連載されていた某漫画であろうか、それともオーバーラップ文庫で刊行されたあの作品であろうか。その答えは各自それぞれとして、皆様は魔獣を料理できるとしたら、どんな魔獣を食べてみたいであろうか。個人的には、私はやはりドラゴンを食べてみたい次第であるが。

 

 

という前置きから察してもらえたと思うがこの作品は、グルメ系のお話である。そして同時に、バディもので成長ものなのである。

 

狩猟と調理の概念が融合した「猟理人」という概念が誕生してから三百年ほどが経過したとある異世界。彼等は魔獣を狩り、そして調理しそこに魔力を込める事で「魔食効果」と呼ばれる効果を発生させる事が出来た。そんな世界の名家の出身である少年、レン。彼は将来を嘱望されながらも、魔食効果を打ち消してしまうと言う厄介な体質が故に見捨てられ虐げられ。実家を飛び出し旅を始めた所で、自分をスカウトしに来ていたエヴァンという男性と知り合い。彼の予想通り一年後、再会を果たし。助手として、彼の娘であるルーシー(表紙)を手助けする契約を結ぶ。

 

出会いはハプニング、態度はツンツン。最悪な始まりからコンビとして、名門であるクルーエル魔術猟理学院に通う事となり。「暴姫」と呼ばれる程に、有り余る魔力を暴走させてしまう彼女をサポートする事になる。

 

何くれとなく、そつなくフォローされる事を重ね、更には強大な魔獣までも瞬殺する彼の実力を目撃し。ルーシーの中に浮かぶのは、彼の実力への疑念。何故彼はそんなに強いのか、彼の事を知りたいと願い、知ってしまうのは彼に隠された面倒な事情。

 

「―――なら、証明しましょうよ」

 

「あたしと来なさい、レン!」

 

 諦めた筈だった、とっくに折れていたはずだった。だが彼女は彼の料理の中に感じ取っていた。例え何も持っていなくとも、料理が好きだと言う思いを。大切な相棒が傷つけられるのは我慢ならぬ、ならば見せつけてやろう、証明して見せよう。光の中から手を差し出し、本当の意味でのコンビとなった彼等は、猟理人にとっての憧れの舞台、「世界魔獣料理大会」を目指し、その予選を勝ち上がるべく挑んでいく。

 

立ち塞がるのは、悪徳の貴族の思惑。そして「伝説の再来」と謳われるレンの従妹のサリア、更には近くにいた者の裏切り。

 

苦難に次ぐ苦難、跳ね除けるには何がいるのか。常に八方塞がりな状況を打開する鍵は何処にある。

 

「魅せてやるよ―――誰でも出来る勇者の魔獣調理術ってやつを」

 

否、探す必要はない。鍵はいつでも彼等の中に。レンが持たぬ代わりに身に着けた全てのレシピ、そしてルーシーとの凸凹コンビだからこそ出来る、調和のハーモニー。それが目覚めたのならば、負ける道理は何処にもないのだから。

 

正に英雄譚であり幻想譚、とでも評したくなるお互いがお互いの救いとなり、本気のスキが炸裂するこの作品。だからこそ真っ直ぐに面白い、骨太に、美味しくて面白いのである。

 

美味しく心を燃やしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

英雄失格者の魔獣グルメ (講談社ラノベ文庫) | 山夜 みい, ファルまろ |本 | 通販 | Amazon