読書感想:隣の席の元アイドルは、俺のプロデュースがないと生きていけない2

 

 さて、この作品は「自分」というものを探す、ドロドロでぐちゃぐちゃな重い想いが交差するラブコメであると言うのは前巻を読まれた読者様であればお察しであろう。主人公である蓮は、ヒロインであるミルとの関わりの中で変化を迎え、ミルは蓮の隣に「自分」というものを見つけ出した。だが、勿論隣に立てるのは一人だけ。君じゃなきゃダメみたい、と叫んでみても、既に隣が埋まっているのならばもう並べない。もう手を伸ばしても届かないのだ。

 

 

蓮の変化、というものに心穏やかでいられる冬華ではなく。そして同時に琴乃もまた心揺らさぬわけがない。彼に気付かれぬだけで、彼の傍で彼を見つめる事で、見つけていた気持ちが手が届かぬものになっていく、その事実が心に嵐を起こしていく。

 

 そう、彼女もまた「品行方正な委員長」という自分ではない仮面を被っているだけ。彼女もまた、「自分」というものを探しているのだ。

 

「やっぱり俺は、作りたいんだ」

 

期末テストも終わり、夏休みが始まる中。今まで映画を禁止していた反動で四日もの徹夜をするという若者だからこその愚行の末。見ているだけじゃ物足りないという思いの元、蓮はミルと琴乃に声をかけ。ミルが見つけてきたコンテストに応募するために、ミルを演者、琴乃を脚本として自主製作映画作成に挑む事となる。

 

脚本の元、描かれるのは幽霊と少女の交流の物語。夏休みを捧げて制作に励む中、三人でプール掃除したり、小旅行に出かけたり、夏祭りの場で花火を見上げたり。かけがえのない日々の中、だが映画製作は期せずして行き詰まってしまう。

 

「だから、今のミルはアイドルの残骸みたいなものなんだ」

 

演者であるミルの問題。捨てた筈のアイドルという外殻の残滓、脱ぎ捨てた後の空っぽの自分。

 

「普通の人は基本的に、何にもなれないんです」

 

脚本である琴乃の問題。ミルという強大な恋敵に嫉妬しても、逆立ちしても叶わない。何にも特別ではない凡人だからこそ、特別である蓮にもミルにも届かない。それでもこの思いだけは捨てられない。溢れ出す思いはいっそ黒い刃のように、蓮の心を苛んでいく。

 

そう、蓮もまた琴乃の本当を見ていなかった。ミルにかまけて彼女を支え続ける中、その思いに気付かなかった。それは仕方ないにしても、最低な事。だが今更だとしても向き合わなければならぬ。そうしなければ誰も進めぬから。

 

「ずっといいカッコばっか見せてきたから、逆に踏み込む事も出来てなかったんだって思ったんだよ」

 

お互いに似た者同士だから分かる、大切なものに踏み込んでいなかったという事が。特別に見えて、一皮むけば凡人同士。今一度分かり合い、再び映画製作は急ピッチで進み、遂に完成の時を迎える。

 

「私じゃ、幸せに出来なかったんだなぁ」

 

その映画を見、自身が置いて行かれた事を感じ。もう彼が手を離れたことを感じ、それでもその手に残っていたものを再発見し。涙を振り切り、冬華はアイドルという仕事へと向き合う。

 

「私、柏木くんを好きになれて良かったです」

 

自分のスキに忠実になった琴乃もまた。傷つくだけと分かっていても、それでも蓮の答えと向き合い、彼の手によって可能性を断ち切ってもらう。

 

「私、もう、君なしじゃ生きられないぐらい、君に影響されてる」

 

 そう、最初から決着はついていた。焼け跡を更に焼いても、既に焼き付いた跡は消えない。そして蓮とミルは、互いの心を既に焼き合っている。もう貴方なしじゃいられない、君じゃなきゃダメみたい。だからこそその結実は必然。ありふれた、だが最幸の結果なのだ。

 

全ての因果は一つに集い、誰もが望んだ結果は訪れて。けれどこの先ももう少しだけ見たいと願うのは、余計な傲慢か、それとも細やかな願いか。

 

私は見たい。・・・見れますよね、見せてくれますよね?

 

前巻を読まれた読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

隣の席の元アイドルは、俺のプロデュースがないと生きていけない2 (ファンタジア文庫) | 飴月, 美和野 らぐ |本 | 通販 | Amazon