前巻感想はこちら↓
読書感想:ブービージョッキー!! - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、前巻が刊行されてから今巻のこの感想を書くまでに競馬界ではレジェンドである武豊騎手がドウデュースと共に六度目のダービーの栄冠を勝ち取ったり、ikzeこと池添騎手とメイケイエールが勝利を掴んだり、武豊騎手がノットゥルノと共にJDDも制覇し三度目の両ダービー同時制覇という快挙に沸いている訳である。ではここで画面の前の読者の皆様、誰か一人競馬騎手をパッと思いついてみてほしい。それは誰であろうか?
それはやはり武豊騎手であるかもしれないし、池添騎手かもしれぬ。リュージこと和田騎手であるかもしれぬし、デムーロ騎手やルメール騎手であるかもしれぬ。
では女性騎手を思いつく読者様はどれだけおられるであろうか? やはり騎手と言えば男性、そんなイメージもある競馬の世界で女性騎手とはどうなのか。今巻はそんなお話であり、一人と一頭のセイラの出番を食って、一人の騎手の再生が描かれる巻なのである。
「でも、今のままじゃ、きっと、まだ足りないんです」
前巻の後、少しずつ調子を取り戻しながらもまだ何か足りぬと模索する颯太。彼の元に持ち込まれたのは「東の巨匠」とも呼ばれ「魔窟」とも呼ばれる厩舎の主である調教師、鉄魁からの調教依頼。その依頼を受け、彼の元を訪れた颯太と出会うのは今巻の相棒、重戦車が如き威容を持ちながらもまだ二歳の牡馬、グラヴィスニーナ。
しかし、それだけではない。かの厩舎で再会を果たしたのは、颯太の後輩であり未だ勝ち星のない女性騎手、秋桜(表紙左)。その相棒であるまるでポニーが如き可愛らしい競走馬、スターゲイザリリーである。
まるで芸術家のように彼を試す鉄魁からのオーダーに見事にこたえた颯太が、どんどんとグラヴィスニーナと息を合わせていく中、スターゲイザリリーと本当の意味で理解し合えぬ秋桜は精彩を欠き。自分の素質に嘆き、不満を述べながら、颯太を振り回す。彼女の面倒を見る様に頼まれた彼を困らせていく。
「その程度の覚悟しかない騎手は、遅かれ早かれ消えていく」
その根底にあるのは、女性騎手を取り巻く問題。当然である。男だらけの世界で女性が生きていく、というのはかくも厳しいものである。颯太が助力を依頼した先輩女性騎手、爽夏も一度は足踏みした場所で秋桜は立ち止まり、何もかも嫌になり逃げだしそうになる。
「きっと、私たちはそういうふうにできている」
だけど、才能と言う呪いを秘めた磁力が彼女を引き留める。スターゲイザリリーの純粋な瞳が、爽夏の言葉が。強引にでも彼女を立ち直らせていく。
初めて知った、スターゲイザリリーの本当の力。初めて知った、騎手としてのドキドキ。その思いを胸に秘め、レースでぶつかり合うのは颯太とグラヴィスニーナ。新たな武器を手に入れた指揮官の駆る重戦車は、悠々と前へと突き進む。
「―――だから、いこうッッ!!」
―――だけど、譲れない。何もかもがどうでもいい、ただ勝ちたい。純粋な思いのままに人馬一体が為る時、新たな怪物は産声を上げる。星を見上げる白百合が覚醒し、秋桜の真価が咲き誇る時。先を行く者達にも負けぬ力が、我ら此処に在りと嘶きを高く響かせる。
手に汗握る死闘の先、生まれたのは一つの確かな結果。
だがこれで終わりではない。本命のレースが待っている。勇者達の集う勝負の舞台はすぐそばまで迫っているのである。
更に熱く、火傷する程に。心燃やす面白さが確かに深まる今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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