さて、この作品の感想を書いていく前に、まずはこの作品のタイトルを見てみてほしい。「ギャル」ではなく「ぎゃる」である。先に言ってしまうがこれは作中における変換ミスである。しかし、この作品を読むと何処か納得できるものがあるのかもしれない、という事を先に言っておこう。何故ならばこの作品のヒロインである「ギャル」、志乃(表紙)は「ぎゃる」という形容詞の方が似合うかもしれない、と思われるからである。
成績超優秀、けれどアニメ大好きな陰キャボッチな少年、三代。彼の青春はいつもくすんだ灰色、しかしそれでいいと許容し、日々何となく過ごす彼。しかしある日、後ろの席の級友である志乃が側溝に嵌っていた現場を目撃してしまい。このままだと汚れたままバイト先に行くしかないという彼女を、近所であった一人暮らしである自分の家に上げ風呂を貸し。そんな一事の気紛れで、この関りは終わる筈だった。
「メモ入れたのに・・・・・・」
「ただ、ぱっと思い浮かんだのがここだったから」
が、しかし。志乃は学校でも気を引きたいとばかりに絡んでくる。更には台風が直撃する中、帰れなくなった志乃をなし崩しに泊める事になり。関りは未だ続いていく事になったのである。
自分には遠い世界で生きている筈の彼女が、実はギャルというイメージにそぐわぬしっかり者であると知り。更にはべったりと、まるで自分にだけは甘えるかのようにくっついてきて。心の壁が音を立てて崩れていく、灰色の青春が色づき始める気配を見せていく。
「あたし・・・・・・三代が好き」
更には志乃の妹である美希とも関わることになり、三人で出かけた中で事故的にファーストキスまでしてしまい。気が付けば見事に志乃に押し切られ、三代は彼女と付き合う事となる。
当然のようにべったりしてきたり、放課後は同じ家で過ごしたり。今までやっていた趣味が一人ではなく二人になり、自然と同じ時間の中で共に居る事が多くなり。そんな彼に周りの注目が集まらないわけがなく。温かなお節介により三代の見た目も改造され、どんどんと周りの見る目が変わっていく。
それは灰色の学生生活では得られぬもの。彼女とだから得られたもの。だからなのだろうか。気が付けば彼女が隣にいるのが当たり前になっていたのは。彼女と過ごす時間が、これでいいかと思えるくらいに苦痛ではなくなっていたのは。
「中に何が入ってるのか分からないけど、クリスマスまで楽しみにしてる」
侵略されていたはずの時間が、共有する当たり前のものになる。恋に落ち、思いを共有することで世界が色づきだす。それは好ましいもの、これでいいかと思えるもの。だからこそ特別になっていく。どんどんと好きになっていく。とーんとなるのである。
正に王道ど真ん中、豪速球のド直球。故に私は言いたい。ここまで心を撃ち抜かれたのも久しぶりだと。大げさな、と言われるのならば是非読んでみてほしい。恐らく分かっていただけると思うので。
ピュアで真っ直ぐな何気ないラブコメが好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
うしろの席のぎゃるに好かれてしまった。 もう俺はダメかもしれない。 (ファンタジア文庫) | 陸奥 こはる, 緋月 ひぐれ |本 | 通販 | Amazon