読書感想:高嶺さん、君のこと好きらしいよ

 

 さて、人の噂も七十五日、なんて言うけれど実際の所は七十五日もかからず消えていくものである。しかしそれはあくまで口伝いでしかない。現代においてはSNSという厄介なものが存在し、そこに残った噂はデジタルタトゥーとして簡単には消えぬものである。だからこそ、噂話は鵜呑みにはしてはいけない。それが本当なのか、きちんと裏を取ってから情報は取り込みたい次第である。

 

 

そんな「噂」というものが、この作品においては重要なファクターを務めている。だがしかし本題はそこではない。本題はもどかしさと初々しさに溢れたラブコメなのである。

 

 では何故もどかしいのか。その答えは簡単、主人公とヒロインの二人ともが何処か初々しく、そしてぽんこつ気味で空回っているのである。

 

遠くからでも校則違反を見極める目を持つ、鉄血系堅物風紀委員の主人公、ケンゴ。彼の元へある日飛び込んだ噂話がある。それはクラスで孤高系の立ち位置を築く、ミステリアスな美女であるサキ(表紙)が彼の事を懸想していると言うもの。

 

「君がおれに好意を抱いていると聞いたが本当か」

 

 実はそれは、彼の事が本当に好きなサキ自身が流した噂。しかしケンゴは持ち前の堅物さであろうことか真っ直ぐに彼女に質問してしまい。思わず逃げ出してしまった彼女を見て、やはりデマかと思い直してしまうのである。

 

だがしかし、それで諦めきれる訳もなく。ケンゴの風紀委員仲間であるリクとタツキに彼の事について尋ねたり。親友であるユウコやキーカに呆れられたりしながら。恋愛についての指南書を片手に、もどかしくも必死に距離を詰め。一緒に昼食を食べる時間を獲得し、何とかデートの約束まで取り付けるサキ。だが、念願のデートの場でケンゴの変わらぬ真面目さが誤解とすれ違いを招き、サキの心を傷つけてしまう。

 

「まだ始まってもいないんだよ」

 

 そのままでいいわけがない。まだ何も伝えていない。だってケンゴもまた、彼女の事が好きであるから。あの日、汚名を背負ってでもサキを助けたあの日からずっと繋がる思いがあるから。もう一度伝えるべく、祭りの場でサキを探して駆ける先、目撃するのは過去の事件の黒幕にもう一度絡まれているサキの姿。

 

「―――前から気になっていた女子に話しかけるのに、何か理由がいるのか?」

 

あの日のように駆け付けて。彼女を背中に庇い、あの日とは違いスマートに解決し。もう一度向き合った先に待っているのは何か。

 

「あと、夏休みは海にでも行くか・・・・・・せっかく付き合ってるわけだしな」

 

それはもはや言うまでもないだろう。お互い同じ思いを持っているのならば後は結ぶだけ。そう、ここからが本当の始まりなのである。ラブコメと言う意味では、ここからが本番なのである。

 

もどかしさと初々しさに一抹の爽快感を加えたこの作品、正にレベルが高い。だからこそ、私はこの作品を面白いと太鼓判を押したい。

 

もどかしいピュアなラブコメが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

高嶺さん、君のこと好きらしいよ (ガガガ文庫 ガさ 13-8) | 猿渡 かざみ, 池内 たぬま |本 | 通販 | Amazon