読書感想:ソレオレノ

 

 さて、画面の前の読者の皆様は砂漠と聞いて何を思浮かべられるであろうか。ハムナプトラという映画を思い出された読者様は少ないかもしれない。砂漠とは一体どんな世界なのか、と聞かれるとやはり砂に覆われた乾燥した世界と言う印象を持たれている方もおられるかもしれない。そして環境問題の一環として、砂漠化というものがある。もし世界の森が砂漠になったらそれこそ大問題であるので、食い止めるべき問題である。

 

 

という前置きはさておき、この作品は砂漠化した世界で繰り広げられる冒険の物語である。ではこの作品では一体、どんな物語が繰り広げられているのか。

 

かつて自らあらゆるエネルギーを取り出した時代が過ぎ去り幾星霜。古代遺物である、精霊を宿す半機械の半分木材、「虫樹」と呼ばれるオーパーツを駆り冒険を繰り広げた男、リョウ(表紙上部右)。最高の冒険者であり、かつて当時の王の願いにより無限の水を齎す遺物、「アフラージ」を手に入れた彼は今、かつての王と部下達の裏切りにより岩窟牢と呼ばれる洞窟の檻に閉じ込められ。名も知らぬ骸骨を話し相手に、心に復讐の炎を燃やしながら脱出の機会を伺っていた。

 

 自らの存在すらも疑わしくなり、復習の炎も消えんとするその時。おんぼろの虫樹、「ソレオレノ」(表紙中央)と共に王の娘を名乗る少女、セン(表紙上部左)が助けに現れ、彼女の手を借り彼は脱獄を果たす。

 

目の前にいるのは憎むべき王の娘。しかし彼女は言う。王は最後まで貴方を信じていたと。今、アフラージはリョウのかつての部下達の手により三分割され独占され、国もまた三分されていると、あの日から十年の時が経っていると。

 

おんぼろの虫樹、「ソレオレノ」、それは全てを奪われたリョウのかつての相棒。自分には何も持っていないと嘯き、自暴自棄に陥ろうとするリョウをセンは投げ飛ばして制止し。だが安息の時は与えぬと、リョウを狙いかつての部下の一人、ユーロが相棒であるシモフリと共に、部下を引き連れ襲来する。

 

もう何も無い、自分はもう精霊とも感じあえない。厳しい現状に折れそうになり、何も信じられずに落ち込み続け。

 

だが、それでもセンは彼を求めた。彼女の部下達は彼を求めた。彼なら出来ると信じ、自らの身を投げうつかのような作戦にも躊躇わず飛び込んでいく。

 

「ソレオレノの中に―――俺自身の中に、見つけたぞ!」

 

 全てを望む、強欲なまでに。それはかつて愛した人の光。それを持つのはかつての王の娘。その姿を見、希望を見出し。リョウは一歩踏み出し、またあの日のように戦う事を望む。その姿に、ソレオレノの中の精霊も手を貸し。あの日のように、心に楽しさが浮かぶ。それは復活の合図。最強の虫使いがここにいるという叫びとなるのだ。

 

もう負けぬ、迷わぬ。雄々しさを取り戻し、ユーロとの決戦に挑むリョウ。その戦いの決め手となるのは、立ち止まったか進み続けたか、ただそれだけの差。そしてその先、高らかに上がるのだ、十年越しの反抗の狼煙が。

 

大型のメカ同士の激しいぶつかり合いと空戦が熱さを齎す中に、復活の輝きと言う面白さがある今巻。

 

心燃やしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

ソレオレノ (ガガガ文庫 ガき 3-4) | 喜多川 信, KENT |本 | 通販 | Amazon