読書感想:英雄支配のダークロード

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「アルカナ」と呼ばれるものをご存じであろうか。決闘者であられる読者様は、正位置と逆位置で効果が異なるかのモンスター達を想起されるかもしれない。しかし、それくらいであったとしても仕方のない事かもしれない。実際、私もアルカナと言われて何も思い浮かぶものがない。それほどまでに、あまり縁のない題材と言っても仕方の無いものなのかもしれない。

 

 

さて、という前書きをここまでしてきたわけであるが、この作品には「アルカナ」の名を冠する二十二人の魔王が存在する。その魔王達が、異世界から召喚した英雄、果てはアーサー王からナポレオンまで様々な人物達を従え覇を競っているのがこの作品の世界観という事だけ覚えておいて欲しい。

 

「なにせ俺はこの100年の間、我慢に我慢を重ねてきたのだから」

 

 三千年に及ぶ争乱の中、100年ほど沈黙を守り、戦をしなかった事で最弱の魔王と蔑まれる魔王が一人いた。その名はフール(表紙中央)。愚者の名を冠する、平和を得るために周辺諸国に媚を売った彼は、しかし牙もないようにみせかけて牙を研ぎあげていた。そのウォーミングアップとして国に潜入した間者が連れていた奴隷の少女、イットを救いスピカ(表紙左上)という名を与え。魔王の顔見せへと形骸化した宴、ヴァルプルギスの夜の最中にいよいよ彼は動き出す。この大陸に覇を唱え、全ての領土を併合し統一する為に。

 

愚者を演じるのはもう辞めだ、今こそ我等の覇道を示す時。突然の彼の反旗に憤慨しそれぞれの軍を率い襲い来る魔王達。かの魔王達に対するのは誰か。それはフールと、彼に仕える英雄達。

 

しかし、その英雄達は決して最強と言う訳ではない。ジャンヌダルク(表紙右上)、源義経(表紙左上下)、明智光秀といった、いわば歴史の敗者たち。黄金から見れば、まるで石くれのような英雄達。しかし、彼はそんな英雄達を運が悪かっただけといい、敢えてそんな英雄達を従え戦争の中を駆け抜ける。

 

 世界は今、初めて知る。愚者の魔王が今まで隠してきた牙が、世界を食い破るほどに鋭いと言う事を。併呑した領地にも気を配り、森に住まうエルフ達とも協調し。そんな彼の前に立ち塞がるのは、「二十三人目」の魔王。鬼へと堕ちた、義経の因縁の相手であるかの英雄。

 

冷酷と恐怖で軍を支配し、圧倒的な力で歯向かう敵を殲滅する。正に一騎当千の強者を前に、光秀の裏切りによりフールの軍は内部崩壊の危機。正に絶体絶命、八方塞がり。

 

「しかし、俺には仲間がいる」

 

 だが、かの英雄になくてフールにしかないものがある。それは頼れる者達、例え汚名を背負おうとも、命がけで付き従ってくれる仲間達がいる。敗北も裏切りも想定通り、全ての策が目を覚ます時、戦局はフールの望むままにひっくり返る。

 

全てはかつて愛した女性の魂を救うため、そして彼女の理想を実現する為に。今ここから始まるのである、いずれ神話となる英雄の、語り継がれるべき神話が。

 

心熱くなる爽快感を楽しんでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

英雄支配のダークロード (GA文庫) | 羽田遼亮, マシマサキ |本 | 通販 | Amazon