読書感想:日和ちゃんのお願いは絶対5

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前巻感想はこちら↓

読書感想:日和ちゃんのお願いは絶対4 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、結局のところ、終わりかけても簡単には終われないものである。変えようと思っても、中々変えられぬものである、世界なんてものは。ヒロインである日和が「お願い」の力を駆使し救おうと奔走したけれど、結局世界を救う事は出来なかった。だがしかし、今巻の感想を書いていく前にこれだけを前提条件として記憶していただきたい。計算で創られた予想は、机上の空論でしかないという事を。

 

 

前巻の最後、轟くような爆音と共に遂に巻き起こった「災害」。地が揺れて空から灰が降り注ぎ、尾道は混乱の中へと陥っていく。

 

 その最中、深春は「お願い」の力で日和に呼び出され。追いかけてきた卜部と今生の別れとなるかもしれぬ別れを交わし、日和との約束を果たす為に彼女と共に「天命評議会」が準備したシェルターで共に生活する事となる。そこで過ごすのは一時の穏やかな時間。世界が終わるまでの最後の余暇。何も考えずに済む時間の中、深春は日和の知らぬ一面を目撃し、只の「恋人同士」として絆を育んでいく。

 

それは何処にでもいる、恋人同士のように。最後の一線は越えずとも、恋人同士の行う当たり前の睦言を交わしながら。世界の終わりをゆっくりと待つ二人。

 

 だがしかし、世界は意外としぶといものであった。シェルターの食料が切れ、数カ月ぶり程度の外出を経て辿り着いた尾道。そこは、まだ死んではいなかった。様々な不便が発生しながらも、多くの人々を亡くしながらも。卜部を始め多くの知人たちが生きていたのである。

 

何処か安心したように、尾道へと戻る深春。しかし、一旦の別れを選びいける限りの「世界」を見に行った日和は、世界の現実を目にする。志保を始め、数々の仲間達の死を見届け、何とか生き延びている尾道以外の、死んでしまった「世界」での不条理を目にし。死と言う救いを得る筈だった世界に溢れる、報われなさを体感していく。

 

 だからこそ、日和は「お願い」の力で世界を終わらせる事を選び。まるで魔王であるかのように、「死」という結末を押し付けようとする。不条理に対する怒りを共有し、それに賛同する深春。しかし、その思いに触れ変えてくる相手がいた。何を隠そう、卜部である。

 

「どう考えても―――わたしの方が、深春にふさわしい」

 

真っ直ぐに、こんな世界でも次代に希望を繋ごうとするかのように。思いを告げてくる彼女が朝陽の中にたたずむ光景に、「世界」へ対する怒りが浮かび。その「怒り」をお返しする為に、抵抗する為に。彼は考えを巡らせる。

 

「俺たちは―――まだ生きてる」

 

そう、不条理はいつだって歴史の中で繰り返し。けれど、その中でも生きている者達、「勝者」達が歴史を作ってきた。だからこそ、まだ自分達は負けていない。命ある限り「負け」ではない。希望をつなぐ可能性が此処に在る。

 

その選択を選び、日和へと手を差し伸べる深春。だが、その手を払い日和は本当の「お願い」を明かす。もう自分の「お願い」が通用しない、自分と言う存在が忘れられた世界という自分だけにとっての「勝利」を選ぼうとする。

 

「俺と、一緒に生きてほしい」

 

 だがしかし。世界のすべてにその「勝利」を押し付けられても、深春にだけは押し付けられなかった。彼だけは忘れなかった、あの日の「お願い」が既に彼を縛っていたから。だから、彼はすべての始まりの場所で日和に「お願い」をする。何の強制力も無いけれど、未来に繋がる「お願い」を。

 

「ずっと・・・・・・一緒にいようね」

 

「・・・・・・ああ、そうだな」

 

全てが終わりかけて、日和という存在も忘れられて。けれど、忘れなかった深春と共に。只の女の子として、この終わりかけた世界で。最後まで生きていく。

 

この作品は、青いと言う方もおられるかもしれない。けれどそれでも、真っ直ぐに見つけたその選択肢は、「尊い」筈である。

 

最後まで、皆様も見届けてほしい次第である。