読書感想:僕の世界は女神で回る

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 賽子振りて一天地六、というのはともかく。画面の前の読者の皆様は賽子を振られた事はあるであろうか。何かの賭け事、もしくはすごろくの駒を進める為。はたまた、何かのカードゲームの効果処理で。自身の命運を賽子に賭け、出た目の結果で一喜一憂された事はあられるであろうか。

 

 

という前置きはさておき、普段は賽子というものは中々振らないものかもしれない。しかしゲームを進める上で、絶対に賽子を使うゲームというものがある。

 

 それこそはTRPG。進行役であるGMと登場人物役であるプレイヤーに分かれ、ルールブックに記載された規律に従い賽子やカードに自身を託し、無限に生み出される物語の中で遊ぶゲームである。

 

そんなゲームに熱中する中学生、ユウ(表紙右)。普段は仲間達を舞台で躍らせるGMとして進行役に徹する彼には一つ、心に秘めた願いがあった。

 

 それはたまにはプレイヤーとしてやってみたいというもの。その言えぬ願いを聞き届けた存在がいた。彼の馴染みの古本屋で入手した謎の本から現れた自称女神、エトランジュ(ユウ命名)(表紙左)である。

 

彼女により問答無用と言わんばかりに部屋に発生した謎の穴からゲームの世界に引きずり込まれ。問答無用と言わんばかりに魔物に襲われ。何とかTRPGの規律を元にした計算の元に撃退したユウは、ピーキーなステ振りをしていた「侍従」となっていたエトランジュと合流し、最初の街を目指し歩き出す。

 

 辿り着いた街で出会ったのは、現実の仲間に何処か似た冒険者達。彼等と一時的にパーティを組み依頼を受け冒険に出発し。しかしその途上、厄介なエネミーとの遭遇でユウは気づく。この創られた世界の正体を。

 

それは彼の自作ゲームの初版。苦い思い出となり封印してしまった、何もかもを間違えた失敗作。

 

だがエトランジュは言う。これは貴方の願望の結果。いつの日かリベンジしたいと願っていた深層心理の表れなのであると。

 

 そう、彼により創られ失敗作として封印されたこの世界。しかしこの世界にだって確かな「世界」があった。例え幻想の存在だとしても、生きている者達がいた。生の息吹に触れ、現実では決して体感できぬ一種の究極的なプレイヤーとしての経験を体感していく。エトランジュを憎む謎の存在の横槍がかき乱す、戦いの中へと飛び込んでいく。

 

「本当だよ。僕はこのシナリオをずっと失敗作扱いしてきたけど、今こそちゃんと手直しをして、みんなと改めて遊んでみたい。そう思ったぐらいに」

 

現実的な息吹の中、心に浮かぶのは「楽しい」という思い。やっぱりこんな世界が、TRPGが好きなんだと言う自分の好きへの新たな自覚。

 

気軽に読めるスラップスティック的な、ドタバタの狂騒劇といった感じのこの作品。だからこそこの作品は気軽に、心を軽くしてくれるのである。

 

何も考えずに世界を楽しみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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