読書感想:みんなのアイドルが俺にガチ恋するわけがない

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「ドッペルゲンガー」という都市伝説染みた怪異の事をご存じであろうか。知らない読者様もおられるかもしれないので簡単に説明すると、所謂「もう一人の自分」という怪異であり、出会ったら最後、どんどん接近されて最後には自分は人知れず消され、そのドッペルゲンガーに自分になり変わられるという逸話のあるものである。昔は、そのドッペルゲンガーに繋がる電話番号なるものも存在していたらしいというものである。

 

 

そんな怪異は流石に存在しないと思われるし、画面の前の読者の皆様の中になり変わられた読者様もおられないであろうが、まぁこの話は心の片隅にでも置いておいてほしい。

 

 ではそれは何故か。その理由は、ドッペルゲンガーにも似たもう一人の自分、作中の用語でいう「レプリカ」が関わってくるからである。

 

 

夜に虹がかかる不思議な自然現象の起きる「夜虹島」。この島には一つ、不思議な現象の伝説があった。言うなれば分裂現象、夜にかかる虹の光に降られたものは自分の影である「レプリカ」が勝手に歩き出すと言うもの。

 

 そんな現象が起きる島で暮らす少年、継陽はある日、元人気アイドルである久良羽(表紙)が自身のレプリカである「クラウ」を追っている現場を目撃し、咄嗟に協力を申し出る。しかし彼女には断られてしまう事からこの作品は幕を開ける。

 

とあるトラウマによる苦い経験からアイドルを辞めてしまったという過去を持つが故に継陽を拒絶し、自分だけで何とかしようとする久良羽。しかし焦る彼女を余所に、レプリカであるクラウは姿を現さず、何故か継陽の目の前にだけ現れてくる。

 

「継陽くんだけは、アイドルのクラウが恋愛してもいい唯一の男の子」

 

何故か継陽だけは特別視し、自分のモノにしようとアプローチをしてくるクラウ。レプリカである彼女のアプローチを鈍感力と鋼の意思で跳ね除けながら、久良羽を助けたいと彼女を心配し続ける継陽。

 

 何故彼は彼女の事を心配し続けるのか。それは自身と同じ思いをしてほしくないから。何を隠そう、彼もまたレプリカとの因縁を抱えていた者であり、最悪の結末を迎えてしまっていたからである。

 

自称、虹の女神である幼女な彼方とぶつかり合い、継陽が辿った道筋を知り。観光客であるアイドル、アイラや高校のアイドル、悠帆と関わり合い。支えられ、久良羽はレプリカと向き合っていく事を選び取る。

 

 一番の解決方法は、レプリカの事を受け入れる事。受け入れると言う事はどういう事か。それは過去のトラウマを受け入れ、過去の自分を乗り越えると言う事。アイドルであった理想像であるレプリカを越えていくと言う事。

 

そしてレプリカもまた、本物になる事を望んでいる。それは何故か。決してそれが存在意義だから、というわけではない。レプリカである彼女にも叶えたい後悔があった。また立ちたい舞台があった。

 

「ほんとうに、アイドルも楽しかったんだよ」

 

「誰よりも知っている」

 

 それでも、素直にならなければいけない。自分の思いに向き合い、選ばなくてはいけない。だからこそ久良羽は選ぶ、己の大切にしたいものを。アイドルであっては決して叶えられぬ、選びたいものを。

 

ちょっと不思議で、シリアスで。けれどそこにあるのは真っ直ぐな、丁寧な初恋。その輝きがあるからこそ、この作品は面白いのである。

 

ちょっと不思議でシリアスめなラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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