読書感想:世界平和のために魔王を誘拐します

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 さて、最近のラノベにおいては「強い」ヒロインも増えてきたような風潮が見受けられる気がするが、画面の前の読者の皆様はどう思われるだろうか。主人公を引っ張り、振り回していくような癖の強いヒロインは、画面の前の読者の皆様はお好きであろうか。

 

 

という前置きの通り、この作品におけるヒロインは強い。否、彼女はヒロインであり同時に主人公を張れる女傑と言っても過言ではないのかもしれない。そんな主人公でありヒロイン、その名をシャルラハート(表紙右)。幼き頃から男達に混じり剣を振るってきた男勝りな小国の王女である。

 

 彼女は一つ、とんでもない行いをしてしまう。それは何か。それは「魔王」の誘拐。まさかの連れ去られる側が連れ去っていくという、正しく寝耳に水な事態である。

 

百年に一度、魔王が生まれそれに合わせ勇者が生まれるこの世界。魔王は魔法の力でしか殺せず、魔王は己の欲望のままに行動する。しかし、今代の魔王は周辺諸国に美姫を差し出す事を求め。シャルラハートはその行動の隙を突き、顔見知りの王女であるアザレアの策に乗り、魔王を誘拐して見せたのである。

 

 望む事態は恒久的平和、その為に行うべきはアザレアの元に魔王、呼称名「黒曜」(表紙左)を連れていき封印する事。一瞬の隙を突き誘拐を成し遂げ、アザレアの元へ向かう為に始まる旅。その最中、シャルラハートは魔王と共に様々な人と出会っていく。

 

都市国家で出会った謎の少女、ティア。病気に臥せった自分に薬をくれた彼女の正体とその思い。

 

竜狩りの国で出会った、勇者見習を名乗るフィリアという少女。只の研鑽の果てに身に着けた力を振るう彼女の、真っ直ぐな心。

 

そんな彼女達の生き様に黒曜は瞳を輝かせ、まるで童子のようになんにでも興味を示し。そのあまりにもな無邪気さと人に対する害意の無さ、願いを叶えると言う狂気の裏にある純粋さを垣間見るシャルラハートの心は揺れていく。本当に封印することが正しい事なのか、自分の行いは正しいのかと言う疑念が湧いていく。

 

心揺らすままに辿り着いたアザレアの元、黒曜を「封印」するという真実の意味は明らかとなる。それはアザレアの悲しき願いが生み出した手段であり、黒曜の心も何もかもを踏みにじるようなもの。

 

「私は欲張りなんだよ。手からこぼれるものが許せないんだ。たとえそれが魔王でも」

 

 それは、正しい行いであるはずだった。しかし、シャルラハートはそれに否を突き付ける。そんな方法で奪うのならば許せない、その思いはまるで魔王のように。しかしそれは黒曜の認めた真っ直ぐな心。強欲だからこそ全てを望むがままに、彼女は魔王を解放しようと手を伸ばす。

 

その果ての結末は、画面の前の読者の皆様の目で是非見届けてみてほしい。

 

強い女性が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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