読書感想:マーディスト ―死刑囚・風見多鶴― (下)

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前巻感想はこちら↓

読書感想:マーディスト ―死刑囚・風見多鶴― (上) - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、先月発売された上巻から続く下巻である今巻であるが、画面の前の読者の皆様も恐るべき死刑囚、風見多鶴の恐ろしさというのは何となくでもお分かりいただけているであろう。その鮮やかな、一種の芸術性すらも持つ犯行によって、模倣犯と呼ばれる狂信者達を生み出してきた彼女。しかし、少し考えてみてほしい。本当に彼女は、模倣犯が現れる事を望んでいるのだろうか? 何故彼女は、音人に「人間」を知ってもらおうと思ったのだろうか?

 

 

それはまるで、死刑囚ではなく既知の相手であるかのよう。それこそ、弟を慈しむ姉のよう。彼女の反応と、ふとした仕草が音人の中に一つの疑念を抱かせる。それは、目の前にいる多鶴は偽物なのではないだろうか、目の前にいるのは本当は失踪した姉である琴都なのではないかというもの。

 

「今回からは、別のゲームをしましょう」

 

 そんな疑念の中、風見多鶴は新たなゲームへと音人を誘う。その名もそのまま、「宝探し」。かつて風見多鶴が用い今もどこかに隠されている彼女が用いた技術や装置、道具を探し出せというゲーム。

 

今も尚、その装置を用い新たな犠牲者を生み出している模倣犯がいる。そして、只の殺人の道具にしてはあまりにも出来のいい道具たちを狙い、自衛隊達もまた動き出す。

 

正に三つ巴、時に四つ巴。時に利用し合い、時に激突し。人を冷凍する装置や、熱戦を撃ちだす銃、雀蜂をおびき寄せる卵と言った数々の道具を巡り繰り広げられる取り合い。

 

 その最中、こっそりと手に入れた彼女のDNAと自身のDNAは一致しないと言う鑑定結果を聞いた音人は、風見多鶴と交流のあった「技術者ちゃん」から自身の仮説の肯定を受け。彼も知らなかった、本当の真実へ技術者ちゃんの導きの元辿り着く。

 

さぁ、ここからはネタバレになるので多くを語るのはやめておこう。では、画面の前の読者の皆様が真実に辿り着けるよう、ヒントを記させていただく。

 

収監されている風見多鶴が姉である琴都であると言うのなら、一体本物は何処にいるのか?

 

何故、音人は風見多鶴とのかかわりの中で変化していったのか?

 

その答えは語るのは野暮である。しかし、もう一つだけヒントを出すのならば。本物は既に作中に出ている。

 

「あなたを好きな私で、本当によかった」

 

そして、その犯行は愛故に。「―――」を想うが故に、「―――」と「―――」はその選択肢を取り。「―――」は只、そこに巻き込まれただけという事である。

 

何かを考えさせられる、重く苦くも、背筋に刺さるかのような面白さのある今巻。

 

前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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