さて、この作品の感想を書いていく前に今更ではあるが、今の世の中はコロナウイルスという面倒なものがそこら中に潜んでいると言うのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。 あのウイルスがあったせいで打ち切りにあってしまった作品があるかもしれぬ、と思うと怒りの湧く限りである。それはともかく、かのウイルスは社会的常識を様々な所で変化させてしまった、というのは皆様もご存じであろう。
その一つとして、「公衆でのマスク着用」というものがある。今やもう、マスクをしていない方が異端とばかりに生活に定着してしまったマスク。どんな状況でも、それを手放せぬもの。
そんなマスクこそが今作品のキーアイテムである。それは何故か。それはこの巻の中盤辺りで突如として発生した謎のウイルスにより多数の生徒達が学校に隔離されると言う衝撃の展開が訪れるからである。
そんな展開の舞台となる、文化祭の迫る吾嶌高校。隔離の対象となった生徒達の中に存在するのが今作品の主人公である真守とヒロインである紗綾(表紙)である。
「惚れんなよ?」
入学式の日に助けられ、その小悪魔な瞳と笑顔に撃ち抜かれ。何とかお近づきになりたいと、運で文化祭の実行委員を掴み取り。けれどどうしても、後輩ポジションから抜け出せなくて。
そんな憧れの先輩との共同生活と言う、ふって湧いた大きな機会。しかし、そんな機会の中、真守は紗綾の小悪魔の仮面の裏に隠れた誰よりも弱い本音に触れていく。
取り繕っていても漏れ出してしまう、彼女にとってはこれが最後の機会だから。だからこそ、絶対に成功させたい。世間の心なき声の悪意になんか負けたくない。必死に声を上げ、先輩を支えると決意を告げる真守。
「本気で甘えちゃうから、覚悟してろよ?」
その本気の叫びは紗綾の心を確かに揺らし。本能的に安心できる相手を得たからか、真守にだけ見せる顔や態度が増えていく。そんな顔や思いが、真守を更に進ませる追い風となっていく。
伝説のあるたこ焼きが出来ぬのならばお守りを、ネットに無自覚の悪意が溢れるのなら、自分達で声を上げ、ひっくり返す力を。
「ありがとね、朝山クンのおかげで最高の文化祭になりそう」
彼女の為に、その最後の機会の為に。その想いが、熱が。小悪魔の心に届き揺らし、彼女の心を変えていく。その思いは、蜜へと繋がる今生まれたばかりの思い。
しかし、この作品の蜜はそれだけではなく。あと二つ、密やかな蜜がすぐそこにある。
題材と描写は一般小説的に生々しく現実的に、そんな中で熱の通ったラノベ的ラブコメの繰り広げられるこの作品。
故に、この作品は唯一無二。今の時代だからこそ生まれ、今の時代だからこそ必要なラブコメであると私は言いたい。
今の時代だからこそのラブコメを読んでみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。