読書感想:見知らぬ女子高生に監禁された漫画家の話

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 さて、言うまでもないが「監禁」というのは犯罪である。バレれば一発終わりな行いである。というのは社会的常識を持たれている画面の前の読者の皆様であればご存じであろう。しかし、時に二次元の世界で「監禁」が題材となる時は、儚い幸せだったり本人達にとっての幸せという言わば正の要素が足される事も多い、と感じる次第であるが画面の前の読者の皆様はどう思われるであろうか。

 

 

ではこの作品の監禁、とは一体どんな行いであろうか。先にお伝えしておこう。この作品、帯にも書いてある通り正しく「問題作」である。そしてジャンルが行方不明、と言っても過言ではない作品であると。

 

 何せこの作品、主人公である漫画家の目が覚めた瞬間、監禁されていると気付く事から始まるのである。しかも首元に鎖付きのチョーカーを装備されるという、割とガチめな監禁から始まるのである。

 

連載していた作品が完結し、しかしネームは没になり続けスランプ続き。何処か退廃的な生活を送りながら、全てから逃げたくなり、けれどお金もない為近場の新居に転居し。

 

 しかし、目が覚めたら何故か新居で鎖に繋がれ監禁されていた。そんな彼の前に現れた少女が一人。その名は此方(表紙)。少し前に落としたスマホを拾ってもらっただけ、という関係の筈の縁もゆかりもない少女である。

 

一方的に包丁を突き付けられたかと思えば、何故か絵を描いてと要求され。訳も分からず彼女をモデルに絵を描き上げれば、入浴させてくれて。 いつの間にか始まっていた監禁生活。

 

 しかし、此方は何故か彼に絵を描く事を求める。その代わりに何故かきちんとお世話をしてくれる。きちんと食事も出してくれるし、要望も聞いてくれるし。外出の自由は与えてもらえぬけれど、それでも普通の生活はある程度させてくれるし、家賃の振り込み等の諸問題も代わりにやってくれる。

 

訳も分からぬままに始まった監禁生活、最初は此方の名前も知らず。しかし、不器用なりに少しずつコミュニケーションを取り、名前を聞き出し。学校に行けない、という彼女の事情を知る。

 

 そんな全てを管理される生活の中、漫画家の心の中に此方が知らぬ間に根付いていく。極限的状況が知らぬ間に心を壊し、此方という毒を入り込ませていく。その末に、漫画家は一本の漫画を描き上げる。「見知らぬ女子高生に監禁された漫画家の話」、彼女への熱いラブレターともいえる作品を。

 

その歪んだ情熱が作り出した作品は、確かな結果を生み出す。しかし同時に漫画家は知る。此方がどれだけ自分を愛しているのか、を。その愛が、世間から見ればどれだけ歪んだものか、という事を。

 

「そこまで俺のことを考えてくれて、嬉しいよ」

 

「ふふふ、ダメじゃん。―――でも、安心して。私がついてる」

 

 しかし、もう盆から零れた水は戻らない。吐いた言葉は飲み込めない。もう既に、まるで食虫植物に囚われるかのように。蟻地獄に落ちていくかのように。その魅力に取り憑かれてしまったから。もう戻れない。過去の自分には。

 

この作品、果たして何と呼べば良いのだろう。ジャンル未定、もしくは行方不明。正に「問題作」というより他になく。

 

しかし、妖しくも歪、何処か仄暗くとも。言い知れぬ魅力があるのは確かである。

 

戦慄的な作品を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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