読書感想:灰原くんの強くて青春ニューゲーム1

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 さて、画面の前の読者の皆様に一つお聞きしてみよう。もしも皆様が、人生を一度だけ、特定の時間に巻き戻る事でやり直せるとしたら、皆様はどうされるであろうか。無論、やり直したくないと言う読者様もおられるかもしれない。それはそれで無論良い。ではやり直したいと言う読者様は、いつからやり直したいであろうか。因みに私はやり直せるなら大学入学前に戻りたい。もっと色々学んで、いい進路に行きたかった、という身も蓋もない理由であるが。

 

身の程をわきまえずに高校時代、デビューに失敗し。友達からはほぼ見放され。灰色の青春時代を送り、大学生時は無難に過ごし。無難な人生を歩もうとしていた青年、夏希。

 

 しかし、何の因果か。それは気紛れな時の女神の悪戯か。何の前触れもなく、彼は七年前。高校入学前の時間に記憶を保ったままに巻き戻っていたのである。

 

再びの時間。しかし今は過去の時代の記憶があり。しかも高校入学まで約一月、何かをする時間は残っている。

 

 もう、あの日の後悔を繰り返さぬために。一念発起し肉体改造とイメージ改造に励み、その結果。本格的なイメチェンを果たし、彼は本当の意味で正しい高校デビューを果たす。そして、一周目とは違い、クラスカースト最上位な美男美女六人組の一員となる事に成功するのである。

 

そこにいたのは、一周目の片思い相手である学園のアイドル的存在、陽花里(表紙)、バスケ部所属のパワー系男子であり、一周目の苦い経験の相手の竜也。一周目とは違い、自分を偽りながら立ち振る舞う事で「六人目」として溶け込み、そこにいるのが自然となり。

 

ある時は陽花里と一緒に下校したり。またある時は、皆でアミューズメント施設に行ったり、バイトを始めた先に皆が来たり、皆でテスト勉強したり。一周目とは違い、確かに過ごしていく青春。あの日とは違う、鮮やかに色付いた日々。

 

 しかし、夏希はまだ気づいていない。人の思いに鈍感であると言う変わらぬ欠点と、一周目で培われた自己肯定感の低さが気付かせてくれない。

 

「完璧超人のお前には、分かんねえだろうがな・・・・・・」

 

竜也の心の中、沸き上がってしまった醜い嫉妬。それは一周目ではありえなかった感情。だが今は、彼が完璧超人に見えてしまうからこそ。今再び、違った形で別離の危機は訪れる。

 

「―――じゃあ、本当のあなたを、みんなに見せてあげようよ」

 

変わらぬ臆病が心を揺らし、涙に揺れる夏希。そんな彼の背を押す、幼馴染の美織。一周目も二周目も変わらぬ、優しき風がその背を押す。

 

「謝るだと? ふざけんじゃねえよバーカ。俺はお前に文句言いに来たんだよ」

 

 今度こそ、別離を起こさぬために。向き合う為に、乗り越えるために。本当の自分をさらけ出し、臆病を越え。夏希は竜也へと立ち向かう。

 

巻き戻ってもままならぬ青春。そこにラブコメも友情も全部詰めて。その全てが、魅力的な登場人物達によって虹色に染められ、繰り出されるこの作品。

 

故にこの作品、青春ラブコメとして既に傑作の片鱗を見せていると私は言いたい。

 

真っ直ぐな青春ラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。