読書感想:サキュバスとニート ~やらないふたり~

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様に一つお聞きしてみたい。皆様はサキュバスと聞いて、どんな存在を思い浮かべられるであろうか。やはり、煽情的な格好で男を甘く魅了して、精を搾り取るような存在の印象があられるであろうか。しかし、最近のサキュバスは純情だったり真面目だったりと、今までのイメージとは全く異なる創作上での味付けがされている事もある、というのはご存じであろうか。

 

 

この作品におけるサキュバスもまた、普通のサキュバスの造形はされていない。ではどんな味付けをされているのか。それはニート気質。駄目淫魔の烙印を押されそうなサキュバスがこの作品のヒロイン、イン子(表紙右)である。

 

イン子はどのようにしてこの世界に来たのか。それは、死んだような日々を過ごすニートの青年、和友(表紙左)に召喚されたから。ニートでもあり童貞でもある彼は文字通り、自分を殺す程に搾り取ってもらうために、独学で彼女を召喚してしまったのである。

 

「あたしは大志以外抱かないから」

 

「・・・・・・じゃあずっとここで暮らすわ・・・・・・」

 

 が、しかし。何故か彼女は命令に従わず。だが和友の願いを叶えなければ帰還もならず。もうどうにでもなれ、と言わんばかりに彼女は居座る事を宣言し、和友の家に居候する事となる。

 

ある時はコンビニに行ったらえっちな本の表紙を見ただけでぶっ倒れ。またある時はお使いを頼まれたら何故かパチンコでお金を増やしてしまい。更にある時は、公園で運動神経の無さを晒してメスガキにからかわれたり、草野球でスポーツマンシップの欠片もないプレーをして大乱闘したり。

 

 淫魔であるという事を隠しもしないせいで、イタい子認定されながらも繰り広げられるドタバタな日常。しかし隠しもしないイン子の素性とは逆に、隠されているものがある。それは和友の過去、本当の「願い」。

 

高校時代の級友、茉依との再会。親友のコンビニ店長、琥太朗との数年ぶりの再会。その先、彼を知る者達の口から少しずつ語られる彼の過去。それは失意の闇に満ちた苦く重きに過ぎる過去。

 

何故彼はイン子に搾り取られ殺されようとするのか。何故、殺されたと言う事実を願いを用いて願うのか。晒された本当の願い、不器用で純粋で優しいからこその間違えた方法。

 

「でもママさんはあたしに願ったから。こいつを頼むって」

 

 その方法を否定する、それは彼が間違えているから、だけではない。イン子は愛の鞭と共に和友に叩きつける。しっかりと向き合うという選択肢を。

 

「俺は―――お前みたいなのを、喚びたかったんだ」

 

向き合いぶつかり合い、ようやく見つけた本当の願い。願いと呼べるものではなかったかもしれないけれど、それでも前に進む為に必要だったもの。それを気付かせてくれたのは、他の誰でもないイン子なのだ。

 

前作が剛であるなら、今作品は柔。作者様のその言葉通り、笑えるキレッキレのギャグの中にどこか心温まり、ほろりと来る「愛」の優しさ、温かさがあるこの作品。

 

深煎りされ熟成された面白さがあるからこそ、この作品を有象利路先生の作風への入り口としてもらいたい。私はそう言いたい。

 

笑えて泣けるギャグが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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