前巻感想はこちら↓
読書感想:忘却の楽園I アルセノン覚醒 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、前巻でこの作品は群像劇的な面白さのある作品であり多数の登場人物がそれぞれの目的のために動いている作品であるという事は、前巻を読まれた読者様であればもうお分かりであろう。前巻で主人公であるアルムとヒロインであるフローライトが掴んだ小さいけれど確かな変化。だがしかし、大きな世界の前ではそんな変化は大海の中の一滴に過ぎず。そして世界の行く末なんてものは、アルムにも、それこそグレンにもどうにもできないのである。何処までいっても彼等は一個人、世界と言う大海の中の一滴にしか過ぎないからである。
あれからリーンは何も変わらなかったか、と言われるとそうでもない。劇的には変わらなかったけれど、確かな変化の楔は撃ち込まれた。オリヴィアは次期女王としての勉強を始め、クリストバルは相変わらず総統補佐官としての道を歩み。そしてアルムは相変わらずフローライトと甘い蜜月の時を過ごしながらも、自身の職務に励む。
「それはつまり・・・・・・殺害されたということなんだな?」
だがしかし、そんな日々の細やかな平穏は淡くも崩れ去る。グレンの元に諜報部隠密の実働部隊から知らされた驚愕の報告。それは彼女の知己の相手であり、アルムの父親であるコランの訃報。しかもただ死んだだけではなく殺害された、更には遺体がほぼ全焼するという凄惨に過ぎる死に方だったという事である。
コランがただ死んだとはどうしても思えない、ただ殺されたと言うのなら真実が知りたい。アルムとグレン、更にはクリストバル達も皆で向かうのは、コランが亡くなった地。
だがしかし、彼等の目の前に待っていたのは驚愕の事実。旧世界の遺産である炎を齎す黒い水、自身に危機が迫っていると知っていたにも関わらず逃げ出さなかったコランの真意。そして、フローライトも知らなかったアルセノンの真実。アルセノンには二種類がいる、そしてもう一つの種類であるアルセノンは哀しき宿命を背負っているという真実。
我々は未だ、本当の意味で知らなかったのかもしれない。この世界という舞台に隠されている真実も。この世界という舞台がどれほど不穏に満ちていて、不安定であるのかという事も。
「そんなことない。たったひとりのアルセノンじゃなくても、そもそもアルセノンじゃなくても、フローライトはフローライトなんだから」
混乱を乗り越えまた新たに結んだ絆。しかしそれもまたこの世界においては小さなものであり、既に新たな不穏の気配はすぐ側で待ち構えている。
更なる不穏が舞台を揺らし、更に世界感が広がる今巻。
前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。