読書感想:無自覚チートの箱入りお嬢様、青春ラブコメで全力の忖度をされる

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 曲がり角でパンを咥えた少女と衝突。何処かで聞かれたことがあるのではないだろうか、こんなシチュエーションも。かつて少女漫画等で使い古された手法であるが、実際の所こんな出会い方なんて発生する確率は天文学的である。現実は漫画でもラブコメラノベでもないのだから当たり前である。だがもし、願った事を現実にしてしまう力があったのなら。まさしくあの伝説の女の子、涼宮ハルヒのような力があったのならば。そんな事も可能になってしまうのかもしれない。

 

 

俺の教室にハルヒはいない筈だった。現実はどこまでいっても運ゲーである。そしてこの作品の主人公である琥太郎は今まで神様に愛されなかった人間である。運に見放された人間である。そんな彼は、どこかのくじびきで神様に選ばれる、なんてこともなく。真っ当な青春を諦めながら退屈な日々を過ごしていた。

 

「青春ってそこから始まるじゃないですか!」

 

 だが、そんな彼が気が付かぬうちに運命のような出会いが訪れる。その主の名は撫子(表紙)。長い闘病生活から奇跡的に回復した、青春に何処かズレたイメージを抱く変人箱入りお嬢様である。

 

気が付けばあれよあれよと言う間に彼女に絡まれ引き込まれ。彼女に引っ張り回され振り回されながら、気が付けば彼女が立ち上げた「アオハル・パーティ」なる謎部活に巻き込まれていて。

 

 変人な彼女により色鮮やかに染められていく日常。だが、琥太郎は振り回される中で彼女と自身の周りに集った仲間達の驚愕の真実と、撫子自身の驚愕の事実を知ることとなる。

 

世界は涼宮ハルヒみたいなものではない筈だった、だが知らなかっただけ。

 

クラス委員長の美玖は告げる。撫子は望んだ可能性を因果を越えて実現させる力を持っていて、彼女は未来で大変な発明を為す事を。そしてその事実をなかった事にするために、未来からの刺客が君を狙うだろうという事を。

 

親友であった楓も告げる、撫子は世界中の組織からの注目株であり、同時に脅威判定されている危険の種であるという事を。

 

いつもちょっかいをかけてくる先輩、きららもまた隠していた事実。未来で撫子が発明したものが一体、どんな事態を巻き起こしてきたのかという事を。

 

 これだけでも衝撃的な事実なのに、更なる衝撃は待っている。撫子自身が明かした、自身の余命の真実。そして、世界は示す。琥太郎と撫子、その命のどちらを取るのか選ぶ時が迫っていると。その命は二者択一。どちらを取るべきか。

 

撫子の命を失わせるわけにはいかない。そして自身の命を、未来のために喪うわけにはいかぬ。悩む琥太郎は閃きに賭ける。撫子の力、その何もかもを望むままに改変する力に。

 

彼女と一緒だから未来はもう、怖くない。信じられるからこそ、その未来に賭けて歩いていける。

 

カオスな中にドタバタな、青春の息吹と瑞々しさが溢れているこの作品。

 

賑やかな青春ラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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