読書感想:ただの地方公務員だったのに、転属先は異世界でした。 ~転生でお困りの際は、お気軽にご相談くださいね!~

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 さて、画面の前の読者の皆様は何らかの用事でお近くの区役所に行かれたことはあられるであろうか。区役所で働かれている人達の事を「地方公務員」という。国の行政機関で働く「国家公務員」のように花形、ではないかもしれないがこの日本と言う国の運営を回すうえで地方公務員の皆様のお仕事は重要なものである。では一体彼等はどんな仕事をしているのだろうか、という事は「サーバント×サービス」という漫画を参考にしていただくとして、もしこんな仕事があったら、一体どう対応していけばよいのだろうか。

 

 

とある市役所で働く、今時アニメ系の話題を何にも知らないと言う一種の希少種と言ってもいいような、真面目だけが取り柄の何の力もない地方公務員の青年、公平(表紙中央)。

 

「君に日本を、救って欲しい」

 

 本日も変わらず、総理大臣が来たとしてもいつも通りの業務を。そんな彼の変わらぬ日々は、いきなり押しかけてきた謎の女性、あさぎ(表紙左端から二人目)が持ってきた謎の事例により崩壊の時を迎える。

 

いきなり明かされた衝撃の事実。それは約百年前に異世界へのゲートが繋がり、その後世界中にその技術が知れ渡り、世界各国から異世界へと人々が送り込まれているという事。そして、その繋がる前、異世界転生者達により文化の汚染が進み、その事態に歯止めをかけるために異世界公務員の制度が出来たという事である。

 

事前説明も一切なく、習うより慣れろと唐突に現場に放り込まれ。

 

 だが、サブカル系の知識が無いのが逆に功を奏したのか。先入観に囚われる事もなく、公平は何処までも真っ直ぐに、異世界公務員としての業務に励んでいく。

 

元アイドル、現転生者兼嘱託職員のミーカ(表紙右)、鳥人族の少女、ニコ(公平の左隣)をお供に窓口業務から税の徴収まで。国の威信と利益のために、只の公務員が背負うには重すぎる責任を背負わされながらも一歩ずつ。

 

 だがしかし、公平が立ち向かうのはそれだけではない。異世界の問題、それの根底にあるのは何か。そもそも異世界の常識を変えてしまったのは誰か。それは転生者でもあり、現代の世界から来た他の異世界公務員達。アメリカの異世界公務員であるアビゲイルとの出会いを切っ掛けに、彼は異世界の謎と異世界を舞台とするパワーゲームへと巻き込まれていく。

 

あらゆる命は無価値、特に神なきこの異世界では地球の者達にとっては。そして異世界の国家は国家ではない、だから罪に問われる筈の行いすらも黙認される。

 

しかし、忘れてはいけないものがある。捨ててはいけないものがある。

 

「・・・・・・僕はむしろ、異世界との友好こそが、日本の国益に通じるはずでは、と思いますが」

 

それを忘れぬ、捨てぬこそが大事。その大切な純粋さを心に持ち続けていられるからこそ、彼は本当の意味で「異世界公務員」と言えるのかもしれない。

 

正しく奇想天外、だけど異世界にきちんと真正面から向き合って、骨太に緻密に描いている。だからこそこの作品は、正直に面白いのだろう。

 

ちょっと変わったファンタジーが読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

ただの地方公務員だったのに、転属先は異世界でした。 ~転生でお困りの際は、お気軽にご相談くださいね!~ (電撃文庫) | 石黒 敦久, TEDDY |本 | 通販 | Amazon