さて、異能バトルと言うジャンルがある。それぞれに身に着けた特殊能力を駆使し、様々な敵と熱い戦いを繰り広げると言うのが異能バトルの面白さの骨子であるという事は、画面の前の読者の皆様もご存じであろう。だがしかし、異能バトルに励むのは往々にして子供達であり、年頃の子供達には青春というかけがえのない時間がある。そして青春を過ごすと言うのも、子供達にとってかけがえのない命題と言っても過言ではない。
ではこの作品のあらすじを見ていくとどうだろうか。異能バトル系のあらすじ、と思われるかもしれない。しかし、予め言ってしまうとこの作品は戦う子供達の心の動きと青春にフォーカスを当てた作品なのである。
かつて二十年前、人類は唐突に異能と呼ばれる一人に一つの力に覚醒する機会を得た。それから十年、異能者が暴走し「アナザー」と呼ばれる化物に変貌するようになった。そんな化け物達を討伐するのが「討伐師」と呼ばれる存在であり、ランキングによって厳正に管理され優劣が決まる存在である。
討伐師の一員であり、札幌地区一位の少年、春近(表紙後方)。彼の異能の名は「怠惰な道化師」。一秒間に三百回、自身を守るバリアを張り替えると言う最弱な異能。
そんな彼と出会い、ひょんな事からチームを組んだ少女、すぴか(表紙中央)。「花炎」と呼ばれる万能にも近い炎を用いる、東京からの留学生。
最弱と最強、序列の違う凸凹コンビ。期間限定のパートナー関係は、共に戦い、背中を預け合う事で確かな絆へと変わっていく。それと共に、春近の周りの関係は確かに変化の時を迎えていく。
「私のこと、考えてくれたの、嬉しくって」
東京にはいなかった、自分の事を色眼鏡で見ずきちんと考えてくれる人。春近という名の相棒を得た事で安らぎと安心を得たすぴかは彼に惹かれ、極秘に言い渡された「任務」との狭間で揺れ惑い。
「未来の事なんて、いいのよ。今一緒にいられれば、それで満足なの」
吐露された本心と優しい肯定に、春近の欠落を抱えた心は救われて。
「勝ちますよ、俺たちは」
だからこそ、大切な幼馴染である少女、渚を狙う因縁の宿敵を相手に彼は絶望ではなく希望を以て戦いに臨む。自身を認められたからこそ気付けた力の本質と、一人ではないからこそ取れる切り札、最高の相棒という力をその手に。
所々に差し挟まれる異能バトルが引き立たせる、等身大の青春。欠落を抱えた者達の恋模様。変則的なラブコメと言えるかもしれない、そういった面白さが見所となるであろうこの作品。
揺れ惑う感情が好きな読者様、バトルもある青春が好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
序列一位の最弱能力 (講談社ラノベ文庫) | 城野 白, kr木 |本 | 通販 | Amazon