読書感想:魔王様、憎き聖女のペットに転生する

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 動物、その中でもペットと呼ばれる類の動物は往々にして可愛い。というのが、世の中の真理の一つであり、不特定多数の共通認識と言えると思われる。例えば犬や猫といった動物たちは共通認識として可愛く、蛇や蜥蜴といったあまり見かけぬ動物達も、飼い主たちにとっては可愛い要素がある。・・・ではもし、そんな彼等も本能的な所ではなく何かを考えているのだとしたら。もし彼等に、かつての生の記憶が残っているとしたのなら、どうすればよいのだろうか。

 

 

若干長めに記してきたが異常が前振りであり、この作品の簡単な骨子である。聖女とペットのほのぼのファンタジー、というゆるゆるなお話なのである。

 

とある異世界の魔界、力こそが全てのその世界を圧倒的な力で制し、荒廃した魔界を救う為に新天地への移住を計画し。侵略へと赴いた人間界で、聖女と呼ばれる一騎当千の戦士に敗れ。最強たる魔王、デモニスは聖女、アイリーン(表紙右)の手により死を迎えようとしていた。

 

死の瞬間、彼の心の中にあったのは絶望か。否、絶望に非ず。配下に命じ、転生の策を用意していたために次の未来への用意は万端。・・・と思いきや、彼の想定外の誤算が発生してしまい、余裕であった彼の心は乱される。

 

何を隠そう、転生先はフェアリーキャットと呼ばれるか弱きペットであり。しかも飼い主であったのはかつての宿敵、アイリーン。しかも名前は「バブちゃん」という屈辱的な状況だったのである。

 

「ママと遊びたいんでちゅか~?」

 

敵として知る姿は何処にもなく、見える姿はフェアリーキャットという自分の姿にデレデレの砕け切った姿のみ。しかし自分に出来る事は現状において何もなく。

 

(・・・・・・これが魔王のやり方か?)

 

そして復習を阻むものがもう一つ。それは高潔な彼自身の心。満月の夜のみ人間の形態をとれるという事が判明しても、不意打ちを出来ない王としての高いプライド。

 

 ならばどうするか。彼が考え付いたのはかつての幹部達との合流、そして自身の可愛さによる侵略という、傍から聞いているとズッコケそうになるほのぼのとしたものである。

 

ここまで読まれた読者様であればもうお分かりであろう。この作品に熱いバトルは無く、復讐的な暗さもなく。ただあるのはもふもふの可愛さとほのぼの。

 

しかし、そんなほのぼのとした所が肩の力を抜いて楽しめる面白さを持っており、何も考えずに読めるゆるさを齎しているのである。

 

動物は可愛い、そしてもふもふだからこそゆるゆる。何の力もないからこそ、ほのぼの。

 

そういう緩い面白さに触れてみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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