読書感想:世々と海くんの図書館デート(4) クリスマスのきつねは、だんろのまえで どんなゆめをみる?

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前巻感想はこちら↓

 読書感想:世々と海くんの図書館デート(3) ハロウィンのきつねは、いたずらな魔王様といっしょにいたいのです。 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を読まれた読者様であればもうお分かりであろう事を一つ、改めておさらいしておきたいと思う。それは、この作品の主人公、海君とヒロインである世々の恋は中学生らしい純粋さで真っ直ぐ、という事である。

 

これも青い鳥文庫という文庫ゆえの特徴となるのだろう。低年齢向け、と言いたければそれで良いかもしれない。だが、私達読者が普段読むようなラブコメとは一周回って違う、高校生くらいの子供達が主人公ではなく、中学生の子供達の物語であるからこそ、何も擦れる事無く、余計なものを挟む必要もなく。只ひたすらにラブコメしているのである。

 

では今巻は一体どんなラブコメを見せて貰えるのであろうか? その答えを簡単、既にもう題名に出ている。そう、クリスマス。恋人達にとって大切なイベントである。

 

 では田舎が舞台の中学生たちによるラブコメで聖也と言えば何処へ行くのだろうか? その答えを簡単に言ってしまえば、世々のお家訪問というどきどきのイベントである。

 

「クリスマス、どこかへ行こうか? 24日か、25日。」

 

聖也も迫る中、いつも通りのノートのやり取り。提案されたのはクリスマスのデート。心色めき立つ世々。

 

が、しかし。姉達に反対され代わりに家に招くことを要求され。期せずして、初めて世々のお家に海を招く事となる。

 

期せずして始まるお家デート。海にごちそうを振る舞う為に懸命に料理の練習を頑張って。彼のリクエストであるハンバーグを作れるように、と頑張って。

 

「メリークリスマスです。海くん。今日はわたしが、海くんのサンタさんです。」

 

二人きりの部屋でのプレゼント交換。心弾む一時と期せずして訪れた距離の近さに心ときめいて。

 

「大丈夫。」

 

年が明け、東京から帰ってきた海が熱を出して寝込んで看病して。いつもとは違う甘えん坊な彼にどきどきさせられたりして。

 

「うん、あまい。」

 

あっという間に季節は流れてバレンタイン、恋人達の季節。友達たちと一緒に作ったチョコのお返しはいたずら的に、不意打ち的に訪れた正面からのキスと共に。

 

 言うまでなく、語るまでもない。甘い、甘いに過ぎる。前巻にも増して、恋人同士だからこその特別な甘さが込められている。停滞するのではなく、更に深まり、もっともっとと言わんばかりに。

 

「あのね、サンタの国ではね・・・」、「だんろのまえで」、「チョコレータひめ」。名作絵本に彩られ、語られて熟成されていく二人の恋。

 

特に注目すべきは海の内面。彼にとって特別な印象であるハンバーグ、そして思い出のないサンタさん。そんな乾いた思い出が世々により上書きされていく、どんどんと特別な時間が増えていく。だからもっと好きになる。

 

もう見逃せない、そう言いたいほどに今巻もまた尊いに過ぎるのである。

 

前巻を楽しまれた読者様、やはり野村美月先生のファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

世々と海くんの図書館デート(4) クリスマスのきつねは、だんろのまえで どんなゆめをみる? (講談社青い鳥文庫) | 野村 美月, U35 |本 | 通販 | Amazon