読書感想:日和ちゃんのお願いは絶対3

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前巻感想はこちら↓

読書感想:日和ちゃんのお願いは絶対2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻の最後で日和の「お願い」によりとんでもない数の人命が失われる、という予告は既にされていた訳であるが、実際その数の死は、何故起きてしまったのか。それが語られるのが今巻である。そして、この巻をこれから読まれる読者様、どうかお覚悟を決めていただきたい。起承転結、という流れの言葉があるが、今巻は正に「転」。全てに決定的な引金が引かれ、世界が終わりへ向けて本格的に針を進めていくのが今巻なのだ。

 

 

 

「―――十二万人殺しちゃった」

 

「―――大量殺人者になっちゃった」

 

大規模な土砂崩れの後、世界に未確認のウイルスが流行する中。深春達の通う学校、そのクラスも登校してくる者達が減り始め。確かに決定的な変化が目に見えだす中、深春へと日和が空白の笑みと共に語ったのは、自身が歴史に名を残すレベルの大量殺人者になってしまったという事。

 

 それは何故か。それは、「天命評議会」がウィルスを抑え込むのに成功した街で、変異し更に毒性を増したウィルスが確認されてしまったから。しかもそれは自然的な理由ですらなく。人間の手が加わったと思しき変化により、「お願い」するしかなかった。そうしなければ億単位の人間を死なせる事になってしまっていたから。

 

「・・・・・・普通の女子高生に、なればいいだろ」

 

とてつもない重荷を背負った彼女を見ていられず。深春は日和に天命評議会を辞めてしまえば良い、普通の女子高生になれば良いと提案し、まるで縋るかのように日和も納得し、天命評議会から離脱する道を選ぶ。

 

 「お願い」の力なんて関係ない。世界の行方なんて関係ない。ただ、普通の女子高生として。それは日和が望んだ日々であり、何よりも尊い日常、の筈だった。だけど、世界の崩壊はそれでも止まらない。そして日和の心もまた、逃げ出す事を許してくれなかったのだ。

 

未確認のウィルスによる被害は確実に日常への浸食を始め、学校の休校という目に見える影響を齎すと共に、遂に彼等の級友という見知った命を奪い去る。

 

世界の終わりは日常から楽しみを無くしていく。ならば自分で作ればよい。そう言うかのように、日和の為にプラネタリウムを作ろうと奔走する深春。

 

だが、その彼の心境を裏に、背負った命の責任は日和を放してくれず。自分に何が出来るのか、という自問自答の元、かつての始まり、自分が何のために世界を変えようとしたのかを振り返り。

 

「―――ごめんね」

 

そして彼女はその果てに、一つの決断を下す。

 

「元気でね、深春くん」

 

 崩壊を始めた世界、その一つの例である廃墟と化した東京で。彼女は深春に別れを告げ、完全に彼を振り切る。

 

賽は投げられた、彼女と彼の絆は途切れてしまった。だけど、世界の終末は止まらず、取りこぼしたものが零れ落ちるように、崩壊は始まっていく。

 

そこへ立ち向かう事を決めた日和はもう止まらない。きっとどんな決断でも下してしまう。

 

一体この先、どんなセカイが待っているのか。怖いけれど楽しみにしたくなる巻である。

 

 

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