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読書感想:声優ラジオのウラオモテ #04 夕陽とやすみは力になりたい? - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、前巻でやすみも声優として一歩突き抜け先を往く夕陽の尻尾を捕まえる、程度の所までいった訳ではあるが故に、今巻の表紙はここまでばっちばちに火花散るのが感じられるかもしれない表紙になっているのかもしれない。それはともかく、画面の前の読者の皆様は「作画崩壊」という言葉はご存じであろうか。ご存じであるという読者の皆様、今巻を読んだらもう批判は出来ないかもしれない。確かに作画崩壊、というものは批判したくなるくらいに見ていられないものである。だが、もしかするとその不手際は好きで起きている訳ではない、というのが分かるのが今巻である。
「うん。まずいかもしれん」
高校三年生、また夕陽と同じクラス。しかも大型の仕事もきまり絶好調、とも言えるやすみ。順風満帆に見えた彼女の前、切実な問題と不穏な問題が待っている。
切実な問題、それは進路問題。声優一本に絞るべきか、大学に行くべきか、それともいっそ辞めてしまうべきか。それだけでも問題であるが、不穏な問題が待っている。また夕陽と同じ作品に出演する事になったけれど、その作品がとんでもない地雷案件だったのである。
原作が一巻しかないからこそ全てオリジナル、だが偉い人の暴走により原作者の意向を無視した要素が取り入れられた結果、原作者に失望され。それどころか監督すらも逃げ出した、もう控えめに言って地獄絵図でしかない、アニメ制作の負の側面が悉く詰められたかのようなこの現場。
それだけで済めば良かったのだが、この作品にはもう一つの不安要素があった。その名は結衣。千佳こと夕陽と同じ事務所の後輩であり、彼女を慕う元気印の後輩である。
彼女は天才、しかも夕陽の上位互換。だがそれは彼女自身の持ち味ではなく、尊敬する夕陽を模倣したからこその演じ方。
収録現場は阿鼻叫喚の修羅場。背中に迫るのは進路と言う現実の問題。隣にいるのは自分の立場を脅かしかねない本物の天才。問題ばかりでされど進まず、それでも立ち向かっていくしかない。
「半人前でも、ふたり揃えば多少はマシになるわ」
「そうね」
自分は一人ではない、隣には誰よりも信頼できる好敵手であり親友であり、相棒がいる。
だからこそ、二人で。修羅場を回す大人達を振り回し、自分達の我が儘を貫き通す。
「だからせいぜい、今は人の真似をしてなさいな」
それは今、泣いている後輩、結衣の為。誰も自分の声なんか聴いてくれていないと、自分のせいで夕陽を傷つけたと泣く彼女の為に。
それは二人の確かな成長だ。そして、喧々諤々だけど一心同体な二人だからこそ、導き出せた救い方なのだ。
ただ道を走るのではなく、時に後ろを追う者を導いて。今までとは一味違う二人の成長が眩しく映える今巻。
シリーズ読者の皆様は是非。今巻もまた満足できるはずである。
声優ラジオのウラオモテ #05 夕陽とやすみは大人になれない? (電撃文庫) | 二月 公, さばみぞれ |本 | 通販 | Amazon