読書感想:黒鳶の聖者2 ~追放された回復術士は、有り余る魔力で闇魔法を極める~

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前巻感想はこちら↓

読書感想:黒鳶の聖者 1 ~追放された回復術士は、有り余る魔力で闇魔法を極める~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を読まれた読者様であれば前巻の展開を覚えておいでであろうが、前巻では幼馴染のエミーと和解し、彼女の心を救う事に成功した筈である。そう、成功した筈、でしかない。ラセルとエミーはもう一度幼馴染を始めたばかり。だが、かつての関係の残滓は簡単に消えるものではなく。その残滓が心の中に蟠っているからこそ、それを本当に解決し、彼女の心を縛る彼女自身の心に光を当てていくのが今巻なのである。

 

 

魔王も討伐し、勢いに乗り。エミーも加えて三人となり。次の魔王を討伐すべく向かうのはセイリス。海からの潮風香るこの街の近くにも、魔王が支配するダンジョンが確かに存在する。

 

シビラの導きで街に繰り出し食べ歩きをしたり、かと思えば、街の孤児院の住人であるアサシンの少女、イヴに財布をスられそうになり、シビラのサポートと手荒い激励で彼女に冒険者としての一歩を踏み出させたり。

 

 新たな街で新たな関りを増やしながら英気を養い、万全の態勢を整え攻略のために乗り込むダンジョン。だが、魔王も然る者。前巻の魔王とは比べ物にならぬほど、今巻の魔王は強敵である。

 

かの魔王の武器は何か。それは「狡猾」。人間の心理を巧みに突く、狡猾にも程がある策を幾重にも張り巡らせてくる。一見順調に見える攻略も、時としてうまくいかずに躓いていく。

 

「覚えておいて、あなたの命はもう、あなた一人のものじゃない」

 

その彼の背を見る度、エミーの中に湧き上がる焦燥感。彼を全ての痛みから守りたいのに、自分にはそれだけの力が無く。彼の事に責任を感じるからこそ、その思いは痛ましい程に。その思いをシビラは肯定しながらも、きちんと諭し彼女にとって一番大切な事を諭し。

 

「今度は俺が、お前を・・・・・・お前自身の心から救ってみせるからな」

 

戦いの中、エミーの本心に気付いたラセルは彼女にとっての英雄となる事を決意し、彼女を救うべく自身の力の一部を託し。

 

「私は、もう待っているだけなんて嫌なんです。いつまでも、このままでいられない」

 

 彼女の中、確かに変わりゆくものがある。大切な存在と同じくらい大切になっていくものがある。そして今、共に並びたい存在がある。だからこそ、過去を越え、何も選ばなかった自分を越え、エミーは決戦の最中、自身の意思で自ら選択をする。ラセルの隣に並び立つため、彼と同じ色を背負う事を。

 

好意も愛情も越えた信頼。ただ守るだけではなく、隣に並ぶ為に信頼し合う。今まさに彼女は過去の自分を越え、新たな自分を始めたのだ。

 

前巻と一つのセットとも言える、確かな面白さと生の感情が見所である今巻。

 

前巻を楽しまれた読者様、やっぱり王道ファンタジーが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

黒鳶の聖者 2 ~追放された回復術士は、有り余る魔力で闇魔法を極める~ (オーバーラップ文庫) | まさみティー, イコモチ |本 | 通販 | Amazon