読書感想:ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました4

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前巻感想はこちら↓

読書感想:ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました 3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、ここまでこの作品を読まれてきた読者様であれば一つ、ある事実にお気づきではないだろうか。それは、主人公であるジードが怒りという一種負の側面の感情からその力を行使した事が無い、という事。個人的な怒りから力を振るった事はほぼなく、だかそれも仕方のない事なのかもしれない。その必要もない程に、過去に築いてきた周囲との関係は希薄であり、何かにキレる程の理由もなかったのだから。

 

 

しかし、そんな彼も今巻ではついに怒りがMAXに達しキレて、明確な悪意の元にその圧倒的に過ぎる力を解放する事となる。だが、その怒りは決して自分の為ではなく。同じパーティの仲間であるユイの為なのである。

 

スフィから未覚醒の聖剣を託されたのも束の間、ジードに下されるのは新たなる依頼。仲間内での「和」を最も重要視する国、東和国で流行する疫病を鎮静化させるために神聖共和国で作られた特効薬を運搬するというもの。

 

命が危険にさらされている、故に神速こそを貴ぶ。その為に竜達の協力を仰ごうと黒竜の巣へと向かったら、百年に一度の竜王達の祭典へと巻き込まれ。

 

何とか協力を取り付けたかと思えば、東和国へと帝国が侵攻を開始し、東和国の一部の上役たちの願いに応じ、神聖共和国の保護を受ける為に五人の頭領達を説得すると言う任務も課せられ。

 

 この五人の頭領こそが、ユイの過去に暗雲を落とした忌むべき外道共であり、ユイが最も復讐するべき相手にして今巻のメインの敵役。そしてあまりの外道な口ぶりに、ジードの怒りの逆鱗を意図せずして踏み抜いてしまった哀れなる者達である。

 

怒りに駆られ我を思わず忘れるユイを見て、それでも尚彼女の親を殺めた事を反省すらせず、それどころか彼女に手を下すという妄言を宣う頭領達。

 

「まぁ、俺は勇者でもなんでもないんだから、良いよな」

 

憎悪の臨界点はとっくに超え、氾濫した怒りはジードの新たな側面を呼び覚まし。苦い後味と共に彼はいつものように、一撃で全てを終わらせる。

 

後に残るは、今までで感じたことのない不快感。

 

「―――ありがとね、ジード」

 

そこに伴っていた悪意は一生消えない。けれど、彼女の言葉は少しだけ自分を許せる免罪符となって。苦みの中に一抹の救いが残る結果を彼へと齎してくれるのである。

 

自分一人では何もできないし、自分は戦う事しか出来ないけれど。それでも戦う度、彼の手には大切なものが集まっていく。決して消えぬ、大切なものが。

 

前巻を楽しまれた読者様、是非楽しんでみてほしい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました 4 (オーバーラップ文庫) | 寺王, 由夜 |本 | 通販 | Amazon