読書感想:クラスに銃は似合わない。

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 さて、今の世の中において、AIというものは大分身近な存在になってきている、というのは画面の前の読者の皆様はもうご存じであろう。だが、AIというものは言ってしまえばプログラムの羅列された集合体であり、そこに個々の自意識なんてものは存在しない。存在するのは、創作の世界だけである。現状は。

 

ではもし、完璧な自由の意思を持つAIがいたら、それは一体何と呼べば良いのだろうか。「AI」だろうか、それとも、「人間」だろうか。その答えの一つが、この作品における「妹」なのかもしれない。

 

「妹」が欲しい。それはこの作品における主人公、折原(表紙右)が過去に母親に願った願い。高齢である母親には到底無理、それも知らず願ってしまった願い。

 

 だが、その願いは研究者であった父親の手により、図らずもとんでもない形で実現する事となる。妹の名は瑞穂(表紙左)。だが、彼女は妹であるが実際の妹、という訳ではない。

 

 それもその筈、彼女はネット上に生み出されたネットベイビーだから。実際の肉体を持たぬ、けれど人間として必要なすべてを持ち合わせ電脳世界に実在する妹である。

 

当然、世間はそれを許す訳もなく。世間からのバッシング、国からの圧力により父親は職を失い。その果て、瑞穂が生きていく事だけは認められ。結果的に彼女は家族となるも、毎年莫大な維持費が圧し掛かる。

 

 だからこそ、働かなくてはならぬ。それもバイトのような安い金しか稼げぬ職業では意味もない。

 

折原が辿り着いたのは、暗殺や護衛等の仕事も請け負うとある「会社」、その名は自由戦士社。妹の為、金の為なら人をも殺すという覚悟を固め試験へと挑む折原。

 

「お兄の健康にリスクがあるくらいなら自殺する」

 

だが、その覚悟は瑞穂の命がけのワガママにより阻まれ。暗殺ではなく、警護の道を試す事になり、折原は田中という名前でとある中学校へと潜入し、モデルの仕事をしている級友、祥子の護衛につく事になる。

 

 普通であれば、何事もなく終わる筈の仕事だった。けれど、その仕事は祥子の属する事務所へ届いた脅迫と、中学校に届いた不穏な知らせから不穏な予感を匂わせだし。その不穏は現実となり、予期せぬ事態が巻き起こる。

 

祥子を狙い襲い来る不穏な誘拐犯。それだけではない。六本の足を持つと言った、誰も見た事のない外見の謎の獣達まで彼女を狙い襲い来る。

 

「徹頭徹尾やり遂げるんだ。それがやつらと俺の違いだ」

 

 だが、それでも彼は戦い抜く。熱さだけではどうにもならぬ、初めての任務だから細かい失敗だらけ、敵は予想外の強敵ばかり。だけど、それでも、と。全ては妹の為に、彼女と共に戦いへと臨んでいく。

 

少年と言う立場からの脱却を目指し、もがき足掻き続ける主人公。その姿を見て貴方は何を思われるだろうか。だが、その姿が格好良く見えたのなら、きっと貴方もこの差K品の虜になっているはずだ。

 

アクションが好きな読者様、青春の情動が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

クラスに銃は似合わない。 (MF文庫J) | 芝村 裕吏, さとうぽて |本 | 通販 | Amazon