読書感想:午後九時、ベランダ越しの女神先輩は僕だけのもの2

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前巻感想はこちら↓

読書感想:午後九時、ベランダ越しの女神先輩は僕だけのもの - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 デートをする、同じ時間を過ごす、キスをする。その先へ進む。それはラブコメにおける神話であり、使い込まれたと言う表現が似合うかもしれない、星の数ほどの恋人同士が辿ってきた道程である。なればこそ、全てのラブコメはそこに帰結するのだろうか。そこに帰結するのを良しとするのか。それとも、神話を否定するのでもなく自分達だけの恋人同士としての在り方を見出すのか。それはラブコメにおいての一つの命題と言えるのかもしれない。

 

この作品の主人公である旭と、ヒロインである夏菜子も今まさに恋人同士となったばかりの二人である。

 

「その上で、旭くんはわたしとどうお付き合いしたい?」

 

が、しかし。付き合い始めてすぐの大切な時期。二人はいきなりのすれ違いの危機を迎えていた。それは何故か。その理由は、旭と夏菜子の付き合い方への考え方の違いである。

 

恋人同士の神話であるような普通のお付き合いを望む旭。それを良しとせず、神話に則らない付き合い方をしたい夏菜子。

 

一体どちらが正しいのか。悩む二人だけのトクベツは「ベランダ越しのお隣同士」。が、しかし。その特別を打ち消す程に二人は様々な問題へと見舞われる。

 

狂信を抜け出し自分の態度を反省したつばきが、旭をデートに誘って来たり。

 

大型休暇、恋人同士にとって一番燃えるであろう時期に、旭が家族旅行に出かける事になってしまったり。

 

だが、そんな日々の中にも特別がある。二人だけにしか出来ぬ特別と、恋人同士としての初めてを学べる、神話に近づける機会がある。

 

旭とつばきのデートを目撃する夏菜子の心の中、沸き上がったのは初めての嫉妬。

 

旭と同じ旅行先へと、同じように家族旅行で出かけた夏菜子。旅行先でも変わらぬ、けれどちょっとだけ違う、ベランダ通しのわずかな距離で積み上げる時間。

 

「―――僕と先輩には、この時間がありますから。僕と先輩だけのこの場所が。僕と先輩だけのこの世界が」

 

 そして、一生懸命に考えた旭は一つの答えを見つけ出す。恋人同士の神話に倣うだけではなく。自分達だけの道を進むだけでもなく。二つを重ねて進んでいく、二つを重ねてもっと濃密な時間を過ごすという答え。それを繋ぐのは、二人だけのトクベツな世界。この世界から全てが始まった。だからこそ無くしたくない、なればこそ全部を取っていくと言う、彼と夏菜子だからこそ出来た答え。

 

恋人同士としてすぐにいちゃつくのではなく、二人だけの答えを探していく。初めてを積み重ね、二人でひざを突き合わせて。その果てに、我慢の殻を壊して距離をもっとゼロに。そこまで緻密に、丁寧に進むからこそこの作品は甘く、正に業の深い純愛を描いていると言えるのである。

 

前巻を楽しまれた読者様、やっぱりラブコメが好きという読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

午後九時、ベランダ越しの女神先輩は僕だけのもの2 (電撃文庫) | 岩田 洋季, みわべさくら |本 | 通販 | Amazon