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読書感想:元スパイ、家政夫に転職する - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、一流スパイから葉桜家の家政夫というまさかの転職を成し遂げ、早速一巻で三姉妹の心を掴んで見せたこの作品の主人公、クロウ。だがしかし、彼の知らぬ所で謀略は巡っているものであり、彼の預かり知らぬ所で、彼には一つの役目が課されている。そんな、スパイ方向への掘り下げを進めていくのがメインとなるのが今巻である。
監視団体、懲罰機関、幽閉機構。フルピースと肩を並べる組織との会合の後、キャサリンは監視団体のボスの側近、エリーよりスパイの暗号で告げられる。フルピースの中には三人の裏切り者が潜んでいると。
それも、三姉妹の母親である冬子を仲間に引き入れる為に送り込まれた事も知らず。現場の第一人者であるクロウは、どこぞの機関のスパイであると見抜いたギャル系のママ友、流美と契約を交わしスーパーのタイムセールという、主婦にとっての戦場へと挑んでいく。
そんな彼へと襲い来る新たな波乱。その運び主であり、今巻でクロウが救う事になる相手。それは大学生である長女の夏海。彼女が抱えるトラウマへと立ち向かうのが、今巻の主軸である。
「・・・・・・ありがとね」
夏海が望まぬ合コンへと行くのなら、人ひとり眠らせ潜入する事だって訳もなく。気が付かぬ間に救われていた、その事実に彼女の胸の中に浮かび上がるは感謝と懺悔。強く振る舞おうとするけれど、未だに強くなれぬ弱虫な心。
更には何の因果か、運の悪い事に夏海の前に自身にトラウマを刻み付けた象徴が姿を現す。
それは、冬子が遠くまで飛ばしたはずの暴力団、その若頭。かつて非人道的な行いで夏海に迫り、その心に傷をつけた許せない者。
では一体何をすべきか。それはもう当然決まっている。全てをスマートにこなし、クールに終わらせるのが家政夫の役目だから。
「だが、このスープを飲み干すまでは、しっかり見ているよ。ズルい夏海も、弱い夏海も、全部」
ただ受け止めるのではなく、全部受け止めると告げて側にいて。
「夏海、戦おう」
「俺は弱虫は嫌いだ。でもな、夏海―――」
「―――強くあろうとする人間は、誰よりも、なによりも尊敬する」
そして、ただ打ち倒すだけでは意味がない。彼女に乗り越えさせなくては意味がない。だからこそクロウは、敢えて夏海を連れて抗争の場で暴れ回り、彼女自身にトラウマを越えさせる。
また一つ、家族の絆を強くして、信頼も勝ち取って。けれど、不穏の種、裏切り者はすぐ近くに潜んでいる。
家族の絆のホームコメディの色を強めながら、更にスパイものの色を出していく今巻。
ホームコメディが好きな読者様、前巻を楽しまれた読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。