さて、一人暮らしというものは一回は経験しておいた方が良いと言われているものである。では、一人暮らしに必要な部屋の大きさというのはどれほどのものだろう。一人暮らしにおいては、自分だけの一国一城となる自分の部屋。そこに何を求めるかは、個人次第なのであろう。
26歳、東京のIT企業に勤めるサラリーマン、陽史。仕事の忙しさにかまけて、故郷である田舎にも帰らずに。そんな中で故郷の人間達とは疎遠になってしまい、里帰りする事もあまりなくて。
彼には今、一つの悩みがあった。それは、家と会社の往復ではあるが、家に比重を置いていないせいで八畳と一間の1DKの部屋を持て余しているという事。が、唐突に故郷の母親から連絡が入り、断り切れぬままに一つお願いをされてしまう。
それは知り合いの家の、幼馴染とも呼べる現在大学生の詩織(表紙右)を暫くあずかれないか、という事。
唐突に始まる同居生活、と思えば事態は突然の急転を向かえる。まるでどこぞのアンジャッシュかのような勘違いにより、詩織と間違えてプチ家出中の見ず知らずの女子高生、彩乃(表紙左)を家に入れてしまったのである。
簡単に放り出すわけにもいかず、詩織にお願いされた事もあり、一晩だけという約束で泊める事になり。皆で餃子を作った夜が明け、約束通りに出ていく彩乃。
そこで縁は切れる筈だった。だが、何故だろう。陽史には彼女を放っておくことが出来なかった。故にまた、彼は駅で今度は自分から彩乃に声をかけ、家にまた泊める事を決める。
そこから始まる、三人のちょっと不思議な同居生活。年齢も立場もバラバラ、それぞれ見ているものも、歩いてきた道も違う三人。
けれど、何故だろう。三人で過ごすこの時間が、何故かこんなにも心地よいのは。
時に三人で街まで買い物に出かけたり。彩乃が陽史のヘアカットに挑戦してみたり。試験勉強に困る彩乃の面倒を二人で見たり。
大人だからこその大雑把な心、大学生だからこその落ち着きと包容力。そして、高校生だからこその真っ直ぐな心。
何れも、どれか一つでも欠けていたらこの空間は出来なかった。けれど今、まるで何かに導かれるようにして出会い、同じ家に集った。だから願ってしまうのだ、どうかこの時間がこのまま、どこまでも続きますように、と。
「もうずっと、こんな風に一緒だった気がする」
同じ時間を過ごしてまだ一か月にもならないけれど、気が付けばそんなに時間を重ねてきた。まるでずっと、家族でいたかのように。
だが、夢のような時間はいつかきっと終わるもの。そしてまだ、何も始まってはいない。まだ、何も。
まるで春の陽の陽だまりの中で微睡むように、何気ない日々の優しさと温かさに溢れたこの作品。
疑似家族モノが好きな読者様、温かな関係が好きな読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
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